[IT受託会社向け資金戦略]

IT受託会社の資金戦略|3月決算前に見るべきは利益ではなく「着地キャッシュ」です

  • 投稿:2023年12月21日
  • 更新:2026年03月15日
IT受託会社の資金戦略|3月決算前に見るべきは利益ではなく「着地キャッシュ」です

3月決算前のIT受託会社は、利益より着地キャッシュを確認する局面です。固定費カバー月数と資金余力から、借入判断の基準を整理します。

2月下旬から3月にかけて、試算表を開いたまま手が止まる経営者がいます。
売上は前年より悪くない。

決算も大きく崩れない見込み。

にもかかわらず、4月以降の資金繰りを考えると、どこか落ち着かない。

IT受託会社では、この感覚は曖昧な不安ではなく、構造を見落としているサインであることがあります。

決算前に利益を見て安心してしまう会社ほど、4月以降の判断を誤りやすい。

ここに、IT受託会社の資金繰りの難しさがあります。

損益計算書では利益が出ていても、月末の預金残高が薄ければ、次の一手はかなり限定されるからです。

3月決算前に見るべきは、損益ではなく着地キャッシュ

IT受託会社は、売上計上と入金の間にズレが生じやすい業態です。

月末締め・翌月末払いや翌々月払いは珍しくなく、受託開発では検収の遅れがそのまま請求の遅れにつながります。

中小企業庁のQ&Aでも、下請法等の考え方として、受領後60日以内の支払期日が示されていますが、実務では検収条件や締め日の設計によって、着金時期は想像以上に後ろへずれます。

一方で、支払いは待ってくれません。

給与は毎月発生し、社会保険料は納付対象月の翌月末が納付期限です。

法人税等の確定申告・納付も、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。

つまり、利益が出ていても、入金より先に現金が出ていく構造がある。

ここを見ないまま「黒字見込みだから大丈夫」と考えると、判断の起点を誤りやすくなります。

まず確認すべきは、3月末にいくら残るのか

見るべき式は、複雑ではありません。

3月末現預金見込みの基本式

3月末現預金見込み
= 2月末現預金残高 + 3月入金予定額 - 3月支払予定額

ただし、ここでいう支払予定額は、会計上の費用総額ではありません。

資金流出のタイミングで見る必要があります。

給与、社会保険料、家賃、システム利用料、固定的な外注費、借入返済元金。

さらに、4月から5月にかけて納付期限が来る税金も、決算前の判断では視野に入れておいた方がよい場面があります。

消費税も、基準期間の課税売上高だけでなく、インボイス発行事業者の登録有無などで納税義務の見方が変わるため、思い込みで処理しない方が安全です。

判断基準は「いくら足りないか」ではなく「何か月持つか」

決算前に置いておきたいのは、残高を月数に置き換える視点です。

固定費カバー月数でみる

資金余力(月数)
= 3月末現預金見込み ÷ 月間固定支出

月間固定支出には、少なくとも人件費、社会保険料、固定的な外注費、家賃、システム利用料、借入返済元金を入れておくと、見誤りが減ります。

たとえば、3月末現預金見込みが900万円、月間固定支出が300万円なら、資金余力は3か月です。問題は、この3か月をどう読むかです。

実務上の見方

2か月未満であれば、入金の遅れや採用先行で一気に身動きが取りづらくなる水準です。
2〜4か月であれば、見かけ上は回っていても、案件の検収ずれ、広告費の先払い、稼働率低下が重なると薄くなりやすい。
4か月超であれば短期の変動には耐えやすいものの、投資、採用、返済計画との整合を別で見ないと、安心しすぎることがあります。

ここで大事なのは、安全圏を断定することではありません。

自社の入金サイト、固定費の硬さ、案件の変動幅で読み替えることです。

IT受託会社は、業種によって薄くなる理由が違う

SES型は、稼働率の低下が遅れて効く

SES型は毎月請求が立ちやすく、売上見通しは比較的置きやすい業態です。

けれども、人月モデルは稼働率が落ちると売上がすぐ縮み、人件費はすぐには下がりません。

採用を先行させた月、待機が続いた月、単価改定が遅れた月が2〜3か月重なると、利益より先に資金余力が削られていきます。

受託開発型は、案件が動くほど薄くなることがある

受託開発型では、検収時期、請求条件、外注先への支払条件が、そのまま資金繰りに響きます。

外注費を先に払い、売上回収は検収後という会社では、案件が進んでいるのに預金残高が増えないことがあります。

さらに広告費や採用費を前払いしながら案件確保を進める局面では、見た目の売上成長と手元資金の薄さが同時に進むこともあります。

よくある誤解

「黒字見込みだから大丈夫」
「来月、大きな案件が入る」
「保証付き融資が使えるはずだ」

いずれも判断材料ではありますが、結論にはなりません。

信用保証制度は、中小企業・小規模事業者、金融機関、信用保証協会の三者で成り立つ仕組みです。

制度が使えることと、今借りるべきかどうかは別の話です。

借入を考えるなら、調達の可否より先に、調達後に何か月の余力を確保したいのかを言える状態にしておく必要があります。

判断が遅れる会社で起きがちな場面

たとえば、3月時点で受注は積み上がっている。

ところが、2件の検収が4月へずれ、外注費はすでに支払済み。

採用したエンジニアの稼働もまだ埋まり切っていない。

決算書の見栄えは悪くないのに、4月末・5月末の支払いを並べると、固定費カバー月数が2か月を切る。
この局面で必要なのは、「融資が通るか」を先に考えることではなく、どこまでの余力を確保する設計にするかを決めることです。

借りるかどうかは、その後の判断です。

まとめ

3月決算前は、利益を確認する時期というより、3月末にいくら現金が残り、その残高で固定費を何か月支えられるかを確認する時期です。
売上が立っていても、入金サイトが長ければ現金は残りません。

案件が増えていても、外注費や広告費が先に出ていけば資金は薄くなります。

ここを見ないまま借入を考えると、資金調達の是非ではなく、判断の順番そのものを誤りやすくなります。

資金戦略は、一般論で決められるものではありません。
同じIT受託会社でも、入金サイトや固定費構造によって最適解は変わります。
重要なのは、「借りられるか」ではなく「今、借りるべきか」を判断できる状態をつくることです。
まずは自社の数字を整理することから始めてみてください。

出典一覧

申告と納税/国税庁/https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/06_1.htm

C1-1 法人税及び地方法人税の申告(法人税申告書別表等)/国税庁/https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/01.htm

厚生年金保険料等の納付/日本年金機構/https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/nofu.html

納付期限/日本年金機構/https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/20121121.html

もっと知りたい信用保証/一般社団法人 全国信用保証協会連合会/https://www.zenshinhoren.or.jp/guarantee-system/

さまざまな保証制度/一般社団法人 全国信用保証協会連合会/https://www.zenshinhoren.or.jp/guarantee-system/hoshoseido/

中小企業向けQ&A集(下請110番)/中小企業庁/https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/shitauke/110/download/qa.pdf

改正ポイント説明会/中小企業庁/https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2025/251014_01.pdf

中小受託取引適正化法テキスト/中小企業庁/https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/toriteki_text_r7.pdf