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[2.資金戦略の基本原則]

資金戦略として見る「決算前の借入」―通るかではなく、借りる意味があるか

  • 投稿:2026年03月09日
資金戦略として見る「決算前の借入」―通るかではなく、借りる意味があるか

決算前の借入は、金融機関の審査に通るかどうか、ではなく、借りる意味で考えます。資金余力、固定費、営業キャッシュフロー、DSCRについて、やさしく整理しました。

はじめに|「借りられるなら借りておいた方がいい」は本当か

決算前になると、会社の借入の相談は増えます。
この時期は、1年間の数字がある程度見えてくるので、金融機関にも話をしやすいからです。

これはごく自然なことです。

ただ、ここで考え方が少しずれることがあります。
それは、「今ならお金を借りやすいかどうか」ばかりを気にしてしまうことです。

でも、本当に大事なのはそこではありません。
大事なのは、その借入に意味があるかどうかです。

お金を借りると、あとで返す必要があります。
つまり借入は、未来に入ってくるお金を先に使うことでもあります。

だから決算前の借入は、単にお金を集める話ではなく、これからの会社のお金の流れをどう作るか、という話として考えたほうがよいのです。

経営の現場では、「借りられるうちに借りておこう」という考え方を見かけます。
たしかに、その気持ちは分かります。

けれど、使い道がはっきりしないまま借りると、安心できるのは一時的で、あとには返済だけが残ることがあります。

ここは見落としやすいところです。

まず考えたいのは「いくら」より「なぜ」

決算前の借入を考えるとき、最初に整理したいのは「いくら必要か」だけではありません。
それより先に、なぜそのお金が必要なのかをはっきりさせることが大切です。

会社で必要になるお金には、いくつか種類があります。

たとえば、毎月の給料、家賃、仕入れなど、事業を回すためにいつも必要なお金があります。
これは日常の運転資金です。

一方で、賞与や納税、ある時期だけ増える仕入れのように、特定の時期だけ必要になるお金もあります。
これは短期のお金として考えやすいものです。

さらに、機械を入れる、人を増やす、拠点を広げるといったように、すぐには回収できず、時間をかけて回収していくお金もあります。
これは長期で考えるべきお金です。

この違いを分けずに借入すると、あとで話があいまいになります。
借りた直後は口座残高が増えるので安心しやすいのですが、しばらくすると「結局、何のための借入だったのか」が見えなくなることがあります。決算前の借入で気をつけたいのは、まさにそこです。

キャッシュフロー視点|黒字でも現金が足りないことはある

決算前は、どうしても利益に目が向きます。
もちろん利益は大切です。

ただ、借入を考えるときは、利益だけでは足りません。

実際にお金が会社に残っているかどうかを見る必要があります。

たとえば、売上が立っていても、まだ入金されていなければ手元の現金は増えません。
在庫を増やせば、その分お金は先に出ていきます。
設備を買えば、会計の上では少しずつ費用になっていくとしても、現金は先に減ります。

つまり、帳簿では黒字でも、手元資金は思ったほど増えていないことがあるのです。

だから、決算前に借入を考えるときは、営業キャッシュフローを見ることが大切です。
これは、本業によって実際にお金が残っているかを見る考え方です。

本業でしっかりお金を生み出せている会社なら、借入は「入金までの時間差を埋めるため」や「次の投資に備えるため」に意味を持ちやすいでしょう。
一方で、本業であまりお金が残っていないなら、借入は問題を後ろにずらしているだけ、という見方も必要になります。

「短いお金」と「長いお金」を混ぜない

借入を考えるときに大切なのは、短い期間のためのお金長い期間を前提にしたお金を分けて考えることです。

たとえば、賞与や納税、入金のずれを乗り切るためのお金は、比較的短い期間の問題です。
一方で、設備投資や採用強化は、効果が出るまで時間がかかります。

この二つを同じように考えてしまうと、経営判断がずれやすくなります。

短い期間のためのお金を、長い返済の借入でまかなうと、本来は一時的な問題なのに返済だけが長く続くことがあります。
逆に、長く時間のかかる投資を短い借入でまかなうと、成果が出る前に返済が先に来て、資金繰りが苦しくなりやすくなります。

借入を考えるときは、少なくとも次の三つを分けて考えたいところです。

何のために使うお金なのか。
どのくらいの時間をかけて回収するのか。
何をもとに返していくのか。

この整理ができているかどうかで、借入の意味はかなり変わってきます。

判断基準|感覚ではなく、4つの数字で考える

借入を「何となく」で決めないために、見ておきたい数字があります。
ここでは4つに絞ります。

まずは、資金余力です。
これは、今ある預金で、毎月の固定的な支出を何か月まかなえるかを見る考え方です。

たとえば、預金が1,200万円あって、毎月の固定的な支出が200万円なら、資金余力は6か月です。

目安としては、
3か月未満なら注意が必要
6か月前後なら一定の安定がある
9か月以上あれば、少し余裕を持って考えやすい
という見方がしやすいでしょう。

次に、固定費比率です。
固定費とは、売上が減ってもすぐには減らしにくい費用のことです。人件費や家賃、リース料などがこれにあたります。
この固定費が重い会社は、少し売上が落ちただけでも苦しくなりやすいので、借入の前にその重さを見ておく必要があります。

3つ目は、営業キャッシュフローです。
本業でちゃんとお金が残っているかを見るものです。

できれば1か月だけでなく、1年分くらいを見て、安定してプラスかどうかを確かめたいところです。

4つ目は、DSCRです。
少し専門用語ですが、簡単にいえば「返済する力がどれくらいあるか」を見る数字です。

返済に使えるお金を、年間の返済額で割って考えます。

目安としては、
1.2倍を下回るなら慎重に見たい
1.5倍くらいあるなら、ある程度の余裕がある
と考えやすいです。

もちろん、数字だけですべてが決まるわけではありません。
ただ、何の基準もなく「たぶん大丈夫」と考えるより、ずっと判断しやすくなります。

金融機関目線|見られているのは「なぜ借りるのか」

金融機関が見ているのは、売上や利益だけではありません。
むしろ大事なのは、なぜ借りるのか、どう返すのかが整理されているかどうかです。

使い道ははっきりしているか。
返済のお金はどこから出るのか。
毎月の数字をきちんと見ているか。
借りたあと、会社のお金の流れはどう変わるのか。

こうしたことが整理されている会社は、話が通りやすくなります。

逆に、
「何となく不安だから借りたい」
「今なら借りられそうだから借りたい」
という状態だと、借入の意味は弱く見えてしまいます。

決算前の借入で大事なのは、借りられるかどうか以上に、自社の中で理由が整理できているかどうかです。

業種差|同じ借入でも、会社によって意味は違う

借入の考え方は、どの会社でも同じではありません。

在庫を持つ会社なら、売上が増えると先にお金が必要になりやすいでしょう。
建設のように、仕事が終わってから入金まで時間がかかる会社もあります。
飲食や介護、運送のように固定費が重い会社では、借入後も毎月の支払いに耐えられるかが大事になります。

つまり、借入の良し悪しは、業種名だけでは決まりません。
固定費がどれくらい重いか
入金までどのくらい時間がかかるか
本業でどれだけお金が残るか
こうした点を、自社の形に合わせて考える必要があります。

まとめ

決算前の借入は、「通るかどうか」だけで考えると判断をまちがえやすくなります。
本当に見るべきなのは、その借入が何のためのものかです。

短い資金の山を越えるためなのか。
長い時間をかける投資のためなのか。
それとも、ただ不安だから手元資金を増やしたいのか。

ここを分けて考えるだけでも、見え方はかなり変わります。

資金余力、固定費比率、営業キャッシュフロー、DSCR。
この4つを並べてみると、「借りたほうがいいかどうか」は、感覚だけで考えるよりずっと整理しやすくなります。

決算前は数字を見直しやすい時期です。

だからこそ、借りることそのものではなく、借りる意味を考える時間にしたいところです。

資金戦略は、一般論だけで決められるものではありません。
業種や固定費構造、入金条件によって最適解は変わります。
重要なのは、「借りられるか」ではなく「今、借りるべきか」を判断できる状態をつくることです。
まずは自社の前提条件を整理することから始めてみてください。

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