行政書士
佐野 雅彦
行政書士事務所ACTION代表。
IT受託会社の借入・返済・追加融資・資金繰りを一体で見ながら、
その場しのぎではない資金の整え方を支援しています。
地方公務員として25年間、制度運用と相談対応に携わった経験を踏まえ、
現在は、返済を続けながら次の借入や投資を進められるかという視点で、記事監修と実務支援を行っています。
このページでは、IT受託会社の経営者に向けて、借入・返済・追加融資・投資判断まで見据えた資金戦略の実務情報を掲載しています。
[2.資金戦略の基本原則]
春の昇給・採用で固定費をどこまで増やせるかを、資金余力、営業CF、固定費比率、DSCRから整理。人件費増を資金戦略で判断するための記事です。
目次
春は、昇給や採用を考える時期です。
人手不足が続くなかで、賃上げも採用も避けて通れない、と感じる経営者は多いでしょう。
実際、中小企業を取り巻く環境でも、人件費や労務費の上昇は強く意識されています。
中小企業庁は価格交渉促進月間の取組のなかで、労務費上昇を前提に価格転嫁を進める必要性を繰り返し示していますし、日本銀行も2026年1月時点で政策金利を0.75%へ引き上げ、追加利上げの可能性を含む局面にあります。
人件費も借入金利も、以前より「上がらない前提」で置きにくくなっています。
ただ、ここで起きやすい誤解があります。
必要な人材だから採る、採れないから賃上げする、という発想自体は自然です。
しかし資金戦略の観点では、先に問うべきは「必要か」ではなく、「固定費として増やしたあと、平常時の営業キャッシュフローで維持できるか」です。
人件費は、増やす判断より、増やした後の持続可能性のほうが重い論点です。
昇給も採用も、資金繰り上は売上拡大策ではなく固定費増加策です。
ここを曖昧にすると判断が甘くなります。
広告費や外注費であれば、状況次第で止めたり縮めたりできます。
ところが人件費は、一度増やすと簡単には下げられません。しかも社会保険料や賞与原資、採用関連費、教育コストなど、周辺費用も連動して増えます。
経営の現場では、「月商が伸びそうだから先に採る」という判断が少なくありません。
ですが、見落としやすい盲点は、売上が伸びても入金が遅ければ資金繰りは先に苦しくなる、という点です。
利益計画は増収を歓迎しますが、資金繰りは回収までの時間差を嫌います。
ここを区別しないまま人件費を増やすと、受注は増えたのに現金が減る、という逆説が起きます。
毎月勤労統計調査によると、2026年1月の現金給与総額は前年同月比で増加しています。
賃金上昇が当たり前になりつつある一方で、会社側は「上がる人件費を、営業キャッシュフロー(以下、「営業CF」といいます)で吸収できるかどうか」を見なければなりません。
判断の起点は営業CFです。
営業CFが安定してプラスで、しかも季節変動後でも十分な厚みがある会社は、固定費増に耐えやすい。
一方で、利益は出ていても売掛回収までの期間が長い、在庫負担が大きい、前払費用が増えやすい会社は、人件費増がそのまま資金ショートの引き金になり得ます。
ここで見るべきは、「年間を通じて黒字かどうか」ではありません。
少なくとも今後12か月の月次資金繰りで、昇給・採用後の給与支払月に現預金がどこまで減るか、を見るべきです。
春に固定費を上げる判断は、単月採算ではなく、谷の月を耐えられるかどうかで決まります。
人件費増を資金調達と結びつけて考える際には、短期資金と長期資金を混同しないことが重要です。
季節要因や一時的な採用立ち上がりコストを埋めるなら、短期資金の発想があり得ます。
しかし、恒常的な人員増や恒久的な昇給は、本来は将来の営業CFで回収されるべき固定費です。短期借入で恒常的固定費を支える構造は、更新依存を強め、返済時期が来るたびに資金繰りを不安定にします。
したがって、採用や昇給を考えるときは、まず「この固定費増は一時的か、恒常的か」を分けること。
そのうえで、恒常的な負担は本業の粗利構造と回収サイトのなかで吸収できるかどうかを確認する。
借入の検討はその後です。
この順番を逆にすると、「借りられるから増やす」という危うい意思決定になりやすいのです。
実務上、春の昇給・採用判断では、少なくとも次の4つを並べて見たいところです。
①資金余力(月数)
「現預金 ÷ 月間固定費」で算出し、昇給・採用後の固定費で再計算します。一般に、季節変動の小さい業種でも3か月未満は慎重、6か月前後あると一定の耐久力、入金変動が大きい業種では6か月超を見ておきたい局面があります。
これは正解ではなく、少なくとも固定費増の前後で何か月分の猶予が減るかを確認するための基準です。
②固定費比率
人件費、地代家賃、リース料、返済元金など、売上が落ちても残る支出が粗利に対して過大になっていないかを見る。
昇給や採用は、この比率をじわりと押し上げます。
固定費比率が高い会社ほど、売上変動への耐性は弱くなります。
③営業CF。
直近決算だけでなく、少なくとも過去12か月間で見て、営業CFが安定してプラスか、運転資金の増加で大きくぶれないかを確認します。
利益よりこちらを重く見るべきです。
④DSCR
これは営業CFや返済原資をもとに、年間返済額をどの程度カバーできるかを見る指標で、少なくとも1.2倍前後を下回る状態で固定費を増やす判断は慎重に見たいところです。
1倍近辺であれば、返済が回っているように見えても余裕は薄い。
新たな人件費増が加われば、金融機関から見た返済余力は急に弱く見えます。
金融機関は、人材確保そのものを否定するわけではありません。
むしろ必要な投資なら理解は得られます。
ただし見るのは、「採用した」という事実より、その後の資金構造です。
日本銀行の利上げ局面では、借入金利の上昇余地も意識されます。
金利が少し上がるだけでも、返済余力の薄い会社には効いてきます。
銀行から見て説明しやすいのは、昇給・採用の理由よりも、増加固定費を織り込んだ月次資金繰り、営業CFの見通し、DSCRの変化です。
つまり、採用計画は人事の話で終わらず、資金計画にまで落ちて初めて評価対象になります。
この論点は業種差が大きいところです。
製造業や建設業のように、受注から入金まで時間がかかり、仕掛や外注費も絡む業種は、採用の前倒しが資金負担になりやすい。
小売や飲食のように日々現金化しやすい業種でも、固定費比率が高ければ売上変動に弱い。
サービス業は在庫が少ない反面、人件費そのものが原価であり固定費でもあるため、採用判断の重みが大きくなります。
中小企業景況調査でも、人手不足や価格転嫁の難しさが業種ごとに異なる形で表れています。
だからこそ、「他社も上げているから」では判断できません。
同じ3%の昇給でも、資金余力8か月の会社と2か月の会社では意味がまったく違います。
春の昇給・採用は、経営上必要な場面があります。
ただし、その判断は採用難や世間相場への反応だけで決めるものではありません。
固定費構造、営業キャッシュフロー、資金余力、返済余力を見ずに人件費を増やすと、成長投資のつもりが資金繰りの硬直化に変わります。
人件費は未来への期待で増やすものではなく、将来の回収可能性から持てる範囲を定めるものです。
重要なのは、賃上げするかどうかより、賃上げしても資金構造が崩れないかを先に検証することです。
自社の春の判断が、人手の問題なのか、資金構造の問題なのか。まずそこを切り分けて考えたいところです。
資金戦略は、一般論だけで決められるものではありません。
業種や固定費構造、入金条件によって最適解は変わります。
重要なのは、「借りられるか」ではなく「今、借りるべきか」を判断できる状態をつくることです。
まずは自社の前提条件を整理することから始めてみてください。
中小企業庁「価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/follow-up/index.html
厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年1月分結果速報」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r08/2601p/2601p.html
中小企業庁「第182回 中小企業景況調査」
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/keikyo/keikyo/182sokuhou.pdf
日本銀行「総裁記者会見」
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2026/kk260126a.pdf
日本銀行「展望レポートのハイライト(2026年1月)」
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/highlight/ten202601.htm
日本政策金融公庫 総合研究所「欧米における中小企業信用保証制度に関する調査(2015年度)」
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/hosyo_oubei_160316.pdf
当事務所は、IT受託会社について、
借入後の返済、入金時期、人件費や外注費の支払い、採用予定などを見ながら、
借入、返済、採用、投資の判断をしやすくする支援を主に行っています。
そのため、次のような方に向いています。
・売上はあるが、手元のお金に不安がある
・借入だけでなく、返済や今後の採用までふまえて考えたい
・その場しのぎではなく、これから先の資金の流れを整理したい
・単発の答えではなく、経営判断に使える形で見直したい
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・情報収集だけを目的としたご相談
・一度だけ答えを聞いて終わるご相談
・個人事業主の方からの一般的なご相談
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