全国対応|支援事例集

IT受託会社支援を中心に、 関連する支援も含めて、資金戦略を実務でどう組み立てているかをまとめた事例です。

[1.資金戦略・財務顧問事例]

IT受託会社の資金繰りは「受注残」があっても安心できない。外注先行と返済負担を整理した支援事例

IT受託会社専門|資金戦略を設計する行政書士・外部CFO型パートナー

受注残はある。
来月以降の案件予定も埋まりつつある。
試算表だけを見ると、しばらく売上には困らなそうに見える。

それでも、口座残高の推移を追うと、経営者の不安は消えていませんでした。

むしろ案件が増えるほど、外注費の支払いと人件費の固定化が先に効いてきます。
売上の見込みはあるのに、次の採用や追加投資を判断しづらい。

今回の事例は、受託開発案件を複数抱え、受注残も積み上がっていたIT受託会社のケースです。

相談の入り口は、
「追加で借入をしておくべきか」
というものでした。

ただ、実際に整理すべきだったのは、借入の可否そのものではありません。

受注残の見え方と、実際の資金余力の見え方が一致していないこと。
ここが一番の論点でした。

事例概要

S社は、受託開発を中心に、一部SESも行っているIT受託会社です。

年商は7,000万円〜9,000万円程度。
代表1名、正社員4〜6名、外注パートナー3〜5名という体制でした。

前期より案件数は増えており、単価も一定水準を維持していました。
試算表だけを見れば、大きく崩れている印象はありません。

一方で、経営者の中には資金繰りへの不安が残っていました。

受注残はある。
案件予定もある。
それでも、増員してよいのか、追加借入をしておくべきなのか、判断しきれない。

ここが相談の出発点でした。

資金繰りが落ち着かなかった理由

問題は、受注残そのものではありませんでした。

整理が必要だったのは、その売上が現金になるまでのあいだに、何が先に出ていくかです。

S社では、請求から入金までおおむね60日前後ありました。
案件によっては検収タイミングが後ろにずれ、請求月が想定より遅れることもありました。

一方で、外注費は毎月先に発生します。
支払い条件は、月末締め翌月払いが基本でした。

社員給与、社会保険料、家賃、既存借入の返済もあります。
これらの支払いは、案件の入金を待ってはくれません。

つまり、売上見込みが増える局面ほど、先に資金が出ていく構造になっていました。

さらに、案件ごとの粗利にも差がありました。

要件が固まっている案件は、比較的粗利が残ります。
一方で、仕様変更が多い案件や短納期案件では、社内工数と外注コストが膨らみやすい状態でした。

受注残全体の金額だけを見ると、売上予定は十分にあるように見えます。
しかし、その中身を見なければ、資金繰りの支えとしてどこまで期待できるかは判断できません。

実際、月商は600万円〜800万円前後で推移していました。
ただ、外注比率が高まる月は、営業キャッシュフローが細くなり、返済と固定費を払った後の残高が、固定費の1か月分程度まで落ちる場面がありました。

黒字ではある。
受注残もある。
それでも資金繰りが落ち着かない。

その理由は、「売上の予定」と「現金の移動」に時間差があったからです。

支援で整理したこと

今回の支援では、受注残の金額だけで判断せず、借入と増員を決める前に、次の3点を整理しました。

1. 固定費を何か月分カバーできるか

まず確認したのは、現預金で固定費を何か月持てるかです。

役員報酬、人件費、家賃、共通経費を中心に見ると、固定費カバー月数は約2.0か月前後ありました。

ただし、実務上すぐには止めにくい外注費の平常支出まで含めると、1.3〜1.5か月程度まで下がりました。

ここで重要だったのは、帳簿上の固定費だけで見ないことです。

受託開発会社では、外注費は変動費として扱われることが多いです。
しかし、実際の現場では、案件を回すために一定期間は止めにくい支出です。

会計上は変動費でも、資金繰り上は固定費に近い負担として見る必要がありました。

この実態で見ると、S社の安全幅は、見た目ほど厚くありませんでした。

2. 稼働率と粗利の下振れに何か月耐えられるか

次に見たのは、稼働率と案件粗利が下振れした場合の資金余力です。

S社では、稼働率が一時的に85%前後まで落ち、粗利の薄い案件が重なると、返済後の資金がかなり細くなる試算でした。

単月であれば耐えられる。
しかし、それが2か月続くと、広告費や採用費を止めざるを得ない可能性がありました。

ここで見えてきたのは、追加借入をするかどうかよりも先に、
下振れを織り込んでも、資金余力が何か月保てるか
を確認する必要があるということです。

案件があるから大丈夫、という判断では足りません。
粗利が薄くなる月、入金が遅れる月、外注費が先に出る月を重ねて見る必要がありました。

3. 返済負担が次の投資判断を止めないか

S社が追加借入を検討していた背景には、
「今のうちに資金を厚くしておきたい」
という考えがありました。

この考え方自体は自然です。

ただし、借入を増やすと、返済負担も固定化します。
返済が始まると、採用、営業強化、広告投資に使える余地は毎月削られます。

今回のケースでは、返済額が月商比で6%台に近づくと、粗利がぶれる月に新規投資を止めざるを得ない可能性がありました。

そのため、借入は「多めに確保する安心」ではなく、
返済しながら判断の自由度を残せるかどうか
で見ることにしました。

借りられるかどうかだけではなく、借りた後も動けるか。
ここを基準にしました。

実際に行った整理

まず、受注残の一覧をそのまま資金余力とは見ませんでした。

案件ごとに、次の項目を並べ直しました。

  • 請求予定月
  • 入金予定月
  • 外注費の支払い月
  • 社内工数の負担
  • 案件ごとの粗利見込み

そのうえで、月次の資金繰りを、平常月ではなく「最も苦しくなる月」を基準に見直しました。

採用費、広告費、外注費増加、既存借入の返済が重なる月を洗い出し、その月に残高がどこまで落ちるかを確認しました。

さらに、資金需要を次の3つに分けました。

1つ目は、既存案件を安定して運営するための運転資金。
2つ目は、案件増加に伴う外注費先行を吸収するための資金。
3つ目は、採用や営業強化といった将来投資のための資金です。

この3つをまとめて考えると、必要な借入額が曖昧になります。
逆に分けてみると、今すぐ必要な資金と、段階的に判断すべき資金が見えてきます。

結果として、S社では追加借入そのものを否定しませんでした。

ただし、借入の目的を整理しました。

まず優先したのは、外注費先行と入金サイトのズレを吸収するための資金です。
採用投資については、受注残の金額だけではなく、実際の入金推移を見ながら段階的に判断する形に置き直しました。

この事例で判断を誤りやすかった点

一つ目は、受注残があるなら資金繰りは大丈夫だと考えてしまうことです。

受注残は、将来売上の見込みにはなります。
しかし、すぐに使える現金ではありません。

入金サイトが60日前後あり、外注費が先に出る会社では、受注残が増えるほど一時的に資金が薄くなることがあります。

二つ目は、外注費を単純な変動費として見てしまうことです。

会計上は変動費でも、現場では案件遂行のためにすぐ止められない支出があります。
資金繰りを見るときは、一定期間は固定費に近い負担として扱うほうが、実態に合う場合があります。

三つ目は、借りられるなら早めに厚く持つべきだと考えてしまうことです。

借入余力があることと、借入後も自由に動けることは同じではありません。
返済が始まった後の月次負担を見ずに借りると、次の採用や営業投資の判断が硬くなります。

S社でも、ここを整理したことで、借入の目的と金額の考え方が変わりました。

事例の着地

この事例で整えたのは、借入のテクニックではありません。

受注残、入金サイト、外注費先行、返済負担を一つの流れとして並べ直し、
「何となく不安だから借りる」
「案件があるから増員する」
という判断から離れたことが大きな変化でした。

最終的には、経営者の中で次の点が整理されました。

運転資金として、どこまで必要か。
下振れに何か月耐える前提で見るか。
返済が次の投資余力を奪わない範囲はどこか。
採用は、受注残ではなく入金推移を見ながらどの段階で判断するか。

この順番で整理すると、借入の是非だけでなく、案件の受け方や外注の使い方も変わってきます。

IT受託会社にとって、受注残があることは悪いことではありません。
ただし、受注残をそのまま資金余力として扱うと、判断がずれやすくなります。

借入を考える前に見るべきなのは、売上予定だけではありません。

資金が最も薄くなる月。
外注費が先行する月。
返済と固定費を払った後に、何か月分の余力が残るか。

ここが整理できてはじめて、借りるかどうかの判断が意味を持ちます。

※本事例は、実際の相談内容をもとに再構成したモデルケースです。守秘義務の観点から、一部表現を調整しています。
まずは自社の数字を整理することから始めてみてください。

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