IT受託会社専門|資金戦略を設計する行政書士・外部CFO型パートナー
追加で借りるべきか。
今回の相談の入口は、そこでした。
ただ、実際に数字を整理していくと、見るべき点は「借りられるかどうか」だけではありませんでした。
大事だったのは、すでにある借入の返済を続けながら、会社がこの先どこまで動けるのか。
採用、営業投資、外注活用といった次の判断を、返済後も残せるのか。
そこを整理することでした。
本記事は、IT受託会社からの相談をもとに、守秘義務に配慮して会社名・地域・時期・数値の一部を調整したモデルケースです。
相談の入口は「追加借入をしたほうがよいか」だった
モデルケースとして想定するのは、受託開発を主軸に、保守運用と一部SESを組み合わせているIT受託会社です。
年商は8,000万円から1億円前後。
代表1名、正社員5〜7名、外注パートナーが複数いる体制です。
案件は一定数あり、先の受注見込みもありました。
採用も視野に入っていました。
そのため、代表の方が考えていたのは、
「今のうちに追加で借りて、資金を厚くしておいたほうがよいのではないか」
ということでした。
この考え方自体は、決して不自然ではありません。
むしろ、先を見ている会社ほど出てくる発想です。
ただ、試算表、資金繰り、既存借入の返済予定を重ねていくと、論点は少し違う場所にありました。
問題は、追加で借りられるかどうかではありませんでした。
すでに始まっている返済が、採用、営業投資、外注活用の判断をどれだけ重くしているか。
そこを先に見る必要がありました。
売上はあるが、自由に動かせるお金は薄くなっていた
この会社は、売上がない会社ではありませんでした。
案件もあり、受注見込みもありました。
数字だけを見ると、事業が止まっている状態ではありません。
ただ、IT受託会社では、売上が立っていても、すぐに現金が残るとは限りません。
この会社でも、売上計上から入金までには一定の時間差がありました。
一方で、人件費は毎月出ていきます。
外注費も、案件の進行に合わせて先に支払いが発生します。
さらに、採用費や営業費をかける場合も、効果が出るより先にお金が出ていきます。
つまり、売上はある。
でも、自由に動かせるお金は思ったほど厚くない。
この状態に、既存借入の返済が毎月固定で乗っていました。
代表の方が感じていた、
「売上はあるのに、次の一手を打つのが重い」
という感覚は、単なる不安ではありませんでした。
返済後の資金余力が薄くなっていることが、判断を重くしていたのです。
最初に確認したのは、返済後に何か月動けるか
当事務所は追加借入の要否を判断せず、依頼者が指定した借入の有無・金額・返済予定を資金計画資料へ反映しました。
まず、依頼者から提供された既存借入の返済予定を反映し、各月の資金残高を資料上に示しました。
ここで大事なのは、単純に手元残高を固定費で割るだけでは足りないということです。
IT受託会社の場合、人件費だけでなく、平常的に発生する外注費があります。
さらに、既存借入の返済も毎月出ていきます。
そのため、固定費だけで見ると余裕があるように見えても、返済と外注費を含めると、実際に動ける月数が短くなることがあります。
このケースでも、固定費ベースでは約2か月台に見えていました。
返済予定と依頼者が指定した外注費を同じ表に反映すると、月末資金残高が固定費等のおよそ1.5か月分となる前提が資料上で確認できました。
この差は小さくありません。
見かけの安定と、実際に動ける余白は別だからです。
次に、少し悪い月が続いた場合を見た
次に確認したのは、少し悪い月が続いた場合です。
IT受託会社では、稼働率が少し落ちることがあります。
粗利の薄い案件が重なることもあります。
検収が翌月にずれることもあります。
これらは、特別な異常ではありません。
実務上、十分に起こり得る揺れです。
そこで、依頼者が指定した売上・粗利の下振れ、採用費、営業費の各前提を反映し、月別資金残高を比較できる資料を作成しました。
ここで見えたのは、返済そのものが悪いという話ではありません。
返済があることで、小さな下振れでも守りに入りやすくなる。
その結果、採用を遅らせる。
営業費を抑える。
外注活用を慎重にする。
このように、資金ショートはしていなくても、会社の判断速度が落ちていく可能性がありました。
資金繰りは、残高だけの話ではありません。
会社がどの速度で動けるか。
どの局面で守りに入るか。
来期にどんな判断を残せるか。
そこまで含めて見る必要がありました。
追加借入は「できるか」ではなく「返済後も動けるか」で見直した
追加借入をすれば、当面の手元資金は厚く見えます。
ただし、その安心は月次返済の増加とセットです。
今回も、借入額だけを見れば、実行の余地はありました。
しかし、返済総額が増えると、来期の採用や営業投資をさらに慎重にせざるを得ない見立てでした。
そこで、依頼者が判断材料として確認できるよう、次の順番で数値と予定を資料に整理しました。
まず、既存返済を続けた場合に、会社が何か月動けるか。
次に、少し悪い月が続いても、返済しながら判断を止めずに済むか。
そのうえで、追加借入をした場合に、採用・営業・外注の判断をどこまで残せるか。
この順番で見ると、追加借入は単なる資金確保ではなくなります。
借りたあとに会社の動き方をどう変えるのか。
返済が増えても、どの判断を残したいのか。
そもそも今すぐ借りる必要があるのか。
そうした論点が見えるようになります。
この支援で整えたこと
今回の支援で整えたのは、「借りるべき」「借りないべき」という結論そのものではありません。
まず、既存返済を前提に、返済後に会社が何か月動けるのかを整理しました。
次に、依頼者が決定した採用時期、外注費、営業費の各前提を同じ資金計画表に反映しました。
そのうえで、依頼者が指定した追加借入の目的・金額・返済予定ごとに、借入後の資金推移を比較できる資料を作成しました。
これらを検討できる状態にしました。
大事なのは、追加借入を否定することではありません。
借入は、会社を前に進めるために必要な場面があります。
ただし、借りたあとに返済が始まります。
その返済が、次の採用や営業投資の判断を止めてしまうのであれば、借入の意味をもう一度整理する必要があります。
今回のケースでは、既存返済と追加借入の各前提を同じ資料に反映したことで、代表者が自ら比較・判断できる材料が整いました。
この事例から見えたこと
IT受託会社の資金戦略は、「借りるか、借りないか」だけでは決めきれません。
売上があるかどうか。
黒字かどうか。
融資が通るかどうか。
もちろん、それらも大切です。
ただ、それだけでは足りないことがあります。
返済したあとに、会社が何か月動けるか。
少し悪い月が続いても、採用や営業投資の判断を残せるか。
外注費や入金時期のずれを含めても、資金が回るか。
来期の動きを縛りすぎないか。
融資の可否・必要性・借入額は、依頼者が金融機関等へ相談して判断します。
資金繰りは、残高を見るだけではありません。
会社が前に出られる余白を見るものです。
当事務所は、依頼者が自ら判断・決定した内容に基づき、融資申請書類・資金計画の作成と、そのための事実関係・数値の整理を支援します。
この順番を間違えないことが、今回の支援で一番大事な点でした。
※本記事は、実際の相談内容をもとに再構成したモデルケースです。守秘義務の観点から、会社名・地域・時期・数値の一部は特定されないよう調整しています。
※当事務所は、融資の可否・必要性・借入額・返済可能性の判断や保証、既存借入の返済条件変更、採用・外注・営業投資等の経営判断、金融機関・従業員・外注先・取引先との交渉・代理を行いません。必要に応じて、金融機関、弁護士、税理士、社会保険労務士その他の専門家へご相談ください。