IT受託会社専門|資金戦略を設計する行政書士・外部CFO型パートナー
はじめに
創業融資を受けたあと、売上が少しずつ伸びてくる。
既存顧客からの紹介も増え、受けきれない案件も出てくる。
この段階で、多くのIT受託会社が考えるのは、採用や外注の拡大です。
「そろそろ正社員を入れたほうがいいのではないか」
「外注先を増やせば、もう少し案件を受けられる」
「広告費をかければ、問い合わせも増やせるかもしれない」
一方で、創業融資の返済はすでに始まっている、または近いうちに始まる。
入金は60日後。
外注費は先に出る。
採用すれば、毎月の人件費が固定で増える。
この状態で、採用、外注、広告費、追加借入を別々に考えると、判断がぶれやすくなります。
創業融資の後に必要なのは、次の成長策を急ぐことではありません。
採用後も、固定費を何か月カバーできるかを確認することです。
創業融資後に資金判断が難しくなる理由
創業融資を受けた直後は、口座残高に余裕があるように見えます。
しかし、その資金は一度使えば減っていきます。
そして、返済が始まると、毎月決まった金額が出ていきます。
創業初期のIT受託会社では、売上が伸び始めた時期ほど資金判断が難しくなります。
理由は、売上の増加と現金の増加が同じタイミングで起こらないからです。
案件を受ける。
制作や開発を進める。
外注費や人件費が出る。
検収が終わる。
請求する。
入金される。
この順番の中で、現金が入るのは最後です。
特に月末締め翌々月末払いに近い条件では、入金までおおむね60日かかります。
いわゆる入金サイト60日です。
売上が伸びていても、現金になるまでに時間がかかる。
ここを見落とすと、成長しているはずなのに手元資金が心許なくなります。
採用は「売上が伸びているから」だけでは決めにくい
創業2年目前後になると、代表ひとり、または少人数では対応しきれない場面が増えます。
このとき、正社員採用を考えるのは自然な流れです。
ただし、採用は一度決めると固定費になります。
固定費とは、売上の多い少ないに関係なく、毎月出ていく支払いのことです。
給与、社会保険料、採用費、教育期間中の工数。
これらを合わせると、1名の採用で月30万円〜50万円前後の負担になることもあります。
問題は、採用後に資金余力が何か月残るかを見ないまま進めることです。
たとえば、毎月の固定費が250万円で、手元資金が750万円なら、単純計算では3か月分です。
ここに採用で月40万円の固定費が増えると、毎月の支出は290万円になります。
手元資金が同じなら、固定費をカバーできる月数は短くなります。
この固定費カバー月数を見ないまま採用すると、売上は伸びているのに、資金繰りの圧迫感だけが増えることがあります。
外注費と広告費は、先に資金が出やすい
IT受託会社では、外注費も資金判断を難しくします。
Web制作であれば、デザイン、コーディング、ライティング、開発補助を外部に依頼することがあります。
受託開発であれば、エンジニアやPM補助を外部に頼ることもあります。
外注費は、元請からの入金より先に支払うことが少なくありません。
たとえば、クライアントからの入金は60日後。
一方で、外注先には翌月末に支払う。
この差があると、案件が増えるほど一時的に資金が必要になります。
広告費も同じです。
広告費は、問い合わせや受注の前に支払いが発生します。
広告を増やすこと自体が問題なのではありません。
ただ、広告費、外注費、人件費、返済が同じ時期に重なると、創業融資で確保した資金が想定より早く減ることがあります。
よくある誤解:売上が伸びているなら追加借入でよい
売上が伸びている会社ほど、追加借入を前向きに考えやすくなります。
ただし、追加借入は資金を増やす一方で、将来の返済も増やします。
借りた直後は口座残高が増えます。
しかし、その後は毎月の返済額が上乗せされます。
創業融資の返済がすでにある場合、追加借入後の返済額を合わせて見なければなりません。
たとえば、創業融資の返済が月15万円〜25万円あり、追加借入でさらに月10万円〜20万円の返済が増える場合、返済だけで月25万円〜45万円程度になることもあります。
この金額を、人件費、外注費、広告費、家賃、社会保険料と合わせて支払えるか。
入金が遅れた月でも資金が持つか。
ここまで見て、初めて追加借入のタイミングを考えることができます。
創業初期に見るべき判断基準
創業融資後のIT受託会社では、次の数字を一体で見る必要があります。
- 現在の手元資金
- 毎月の固定費
- 創業融資の返済月額
- 入金サイト
- 外注費の支払時期
- 採用後の人件費
- 広告費の支払い予定
- 追加借入後の返済月額
- 3か月先、6か月先の資金余力
特に重要なのは、資金余力が何か月分あるかです。
「資金余力」とは、手元資金で毎月の支払いをどのくらい支えられるかを見る考え方です。
創業初期では、少なくとも3か月分、採用や外注拡大を進める局面では6か月分程度を見ておきたい場面があります。
ただし、これは一律の正解ではありません。
継続案件が多く、毎月の入金が読みやすい会社と、単発案件が中心で検収が遅れやすい会社では、必要な資金余力は変わります。
大事なのは、「何となく足りそう」ではなく、採用後、外注増加後、追加借入後の数字を並べて見ることです。
匿名モデルケース:採用前に資金計画を見直した創業2年目の会社
創業2年目前後のWeb制作・受託開発会社のモデルケースです。
年商は3,000万円〜5,000万円程度。
創業融資を受けており、売上も伸び始めていました。
代表は、初めての正社員採用を検討していました。
外注先も増えており、案件を受ける余地はありました。
一方で、入金サイトはおおむね60日。
外注費は月末払いが多く、案件によっては支払いが先行していました。
当初の相談は、追加借入を受けるべきかどうかでした。
しかし、数字を整理すると、論点は借入額だけではありませんでした。
採用した場合、毎月の固定費が増えます。
外注を増やせば、入金より先に支払いが出ます。
広告費を増やせば、成果が出る前に現金が減ります。
そこに創業融資の返済が重なります。
そこで、まず3か月先、6か月先の資金推移を確認しました。
見るべきポイントは、採用後の固定費カバー月数でした。
採用前は一定の資金余力がありましたが、採用と外注増加を同時に進めると、数か月後に手元資金が薄くなる可能性がありました。
そのため、すぐに採用、外注拡大、追加借入を同時に進めるのではなく、順番を整理しました。
まず、既存案件の入金予定と外注費の支払い予定を確認する。
次に、採用した場合の固定費増加を反映する。
そのうえで、追加借入が必要になる時期と金額を検討する。
融資を受けるかどうかを先に決めたのではありません。
創業融資後の返済、採用、外注、広告費を一体で見て、資金判断の順番を整えた事例です。
※本事例は実際の相談内容をもとに再構成したモデルケースです。
守秘義務の観点から一部表現を調整していますが、判断の構造自体は実務に基づいています。
業種によって資金の減り方は変わる
同じIT受託会社でも、資金の動き方は異なります。
Web制作会社では、デザインやコーディングの外注費が先に出やすくなります。
検収が遅れると、請求も入金も後ろにずれます。
受託開発会社では、開発期間が長くなりやすく、途中入金がない案件では数か月分の人件費を先に負担することがあります。
保守運用が多い会社では、毎月の入金予測は立てやすい一方で、固定人件費の負担が重くなることがあります。
そのため、創業融資後の資金計画は、業種名だけでは決められません。
入金サイト、外注費の支払い条件、人件費、返済額を合わせて見る必要があります。
まとめ
創業融資後のIT受託会社では、売上が伸び始めた時期ほど判断が難しくなります。
案件が増える。
外注費が増える。
採用したくなる。
広告費をかけたくなる。
追加借入も考え始める。
この流れ自体は自然です。
ただし、採用、外注、広告費、追加借入を別々に判断すると、資金余力が見えにくくなります。
特に、入金サイト60日、外注費先払い、創業融資の返済が重なる会社では、売上成長と手元資金の増加がずれることがあります。
創業融資を受けた後こそ、採用・外注・追加借入をあわせて考える資金設計が必要になります。
行政書士事務所ACTIONでは、創業初期のIT受託会社向けに、借入後の返済、採用、外注、追加融資をあわせて整理する「創業3年資金ポートフォリオ設計」を行っています。
資金戦略は、一般論で決められるものではありません。
同じIT受託会社でも、入金サイトや固定費構造によって最適解は変わります。
重要なのは、「借りられるか」ではなく「今、借りるべきか」を判断できる状態をつくることです。
まずは自社の数字を整理することから始めてみてください。
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