※本事例は実際の相談内容をもとに再構成したモデルケースです。守秘義務に配慮し、企業や人物を特定できないよう、規模、時期、金額など一部の情報を加工・変更しています。
追加借入を検討するときは、「今、借りられるか」だけでなく、既存借入と合わせて無理なく返済できるかを確認する必要があります。
特に、採用や外注の拡大も予定している会社では、借入返済と固定費が同じ時期に増えます。
借りた直後は手元資金が増えても、その後の返済を含めると、数か月後に再び資金が少なくなることがあります。
今回は、依頼者が検討・決定した追加借入、採用、外注の各前提を、3年間の資金計画資料へ反映したIT受託会社の事例です。
相談前の状況
相談の対象となったのは、年商7,000万円前後の受託開発会社です。
売上が大きく落ち込んでいたわけではありません。案件の相談も増えており、代表は正社員の採用を検討していました。
外注先を増やせば、さらに受注できる見込みもありました。
一方で、会社には既存借入があり、毎月30万~40万円台の返済が続いていました。
顧客からの入金は、おおむね60日後です。外注費は月末払いが多く、案件によっては顧客からの入金より先に支払う必要がありました。
売上が増えても、すぐに現金が増えるわけではありません。
案件が増えるほど、人件費や外注費が先に増える可能性がある状態でした。
経営者が感じていた不安や迷い
当初の相談は、追加借入を受けるべきかというものでした。
資金を先に確保できれば、採用や外注の拡大を進めやすくなります。
しかし、追加借入をすれば、現在の返済に新たな返済が加わります。
採用を同時に行えば、給与や社会保険料も毎月発生します。外注を増やせば、顧客からの入金前に支払う金額も大きくなります。
代表が判断できずにいたのは、追加融資の審査を通過できるかどうかだけではありません。
既存借入を返済しながら、採用と外注を増やしても会社が無理なく回るのか。その見通しが必要でした。
数字や契約条件を整理して分かったこと
最初に、現在の資金状況と今後の計画を同じ表にまとめました。
確認した項目は、次のとおりです。
- 現在の手元資金
- 毎月の固定費
- 既存借入の返済額
- 案件ごとの入金予定
- 顧客との入金条件
- 外注費の支払時期
- 採用後に増える人件費
- 追加借入後の返済額
- 3年後の借入残高
整理すると、問題は追加借入の金額だけではないことが分かりました。
追加借入を行えば、短期的には口座残高が増えます。
しかし、既存借入の返済に追加の返済が重なると、毎月必ず出ていくお金も増えます。
さらに採用を進めれば、人件費と社会保険料が固定費として加わります。
外注費も入金より先に支払うため、追加借入をしても、数か月後に資金余力が少なくなる可能性がありました。
必要だったのは、依頼者が自ら検討するために、採用・外注・追加借入の各前提による資金推移を同じ資料で比較できる状態にすることでした。
ACTIONが整理した内容
当事務所は、依頼者が比較条件として指定した複数の前提を用い、3年間の資金推移を資料上に示しました。
主に確認したのは、次の3点です。
※当事務所は、融資の可否・必要性・返済可能性の判断や保証、採用・外注・投資・経営方針の決定、労務・社会保険相談、契約内容の法的判断、税務・会計相談、金融機関・従業員・外注先・取引先との交渉・代理を行いません。必要に応じて、金融機関、社会保険労務士、弁護士、税理士その他の専門家へご相談ください。
追加借入後の毎月の返済額
既存借入の返済予定と、依頼者が金融機関等へ確認して指定した追加借入の返済予定を同じ表に反映しました。
借入直後の口座残高だけでなく、その後の返済が資金繰りに与える影響を確認します。
採用後の資金余力
採用を想定する場合は、依頼者が社会保険労務士等へ確認して決定した給与・社会保険料・採用時期を反映し、各前提における資金残高を資料上に示しました。
採用そのものが問題なのではありません。
採用後も、入金の遅れや案件の減少に対応できる資金を残せるかが判断材料になります。
3年後の借入残高
短期的に資金を確保できても、3年後にどの程度の返済負担が残るかを確認しました。
その時点の資金残高も資料に示し、次の採用や投資を行うかは依頼者が判断します。
加えて、次のような場合を比較しました。
- 追加借入だけを行う場合
- 採用だけを行う場合
- 外注先を増やす場合
- 採用と追加借入を同時に行う場合
- それぞれの実施時期を分ける場合
- 入金や外注費の支払条件を見直す場合
一つの予測を正しいものと決めるのではなく、売上や入金が予定どおりにならない場合も含めて確認しました。
経営者が判断できるようになったこと
作成した資料により、依頼者は採用と追加借入を同時または時期を分けて実施する各前提の資金推移を比較できるようになりました。
資料上で比較した前提は、次のとおりです。
- 既存借入を含む毎月の資金流出を確認する
- 顧客からの入金時期と外注費の支払時期を確認する
- 採用後に固定費がいくら増えるかを確認する
- 採用後も必要な手元資金を残せるかを確認する
- 必要に応じて追加借入と返済後の資金推移を検討する
融資を受けるかどうかを先に決めたわけではありません。
既存返済を含めた資金構造を確認したうえで、何をどの時期に実施するかを比較できるようになりました。
この事例から分かる一般的なポイント
既存借入がある会社の追加借入では、借入総額だけを見るのではなく、毎月の返済額を確認する必要があります。
また、借入返済だけを切り離して考えることもできません。
採用後の人件費、外注費の支払い、顧客からの入金時期が、同じ会社の資金から動くためです。
特にIT受託会社では、次の条件が重なることがあります。
- 顧客からの入金までに時間がかかる
- 外注費が売上入金より先に発生する
- 採用すると固定費が増える
- 案件が増えるほど先行支出も増える
- 既存借入の返済が続いている
- 追加借入によって毎月の返済が増える
追加借入が必要な場合もあります。
大切なのは、借入によって一時的に口座残高を増やすことではありません。
返済開始後も会社が無理なく回り、必要な採用や投資について判断を続けられるかを見ることです。
同じような状況の経営者が確認したいこと
追加借入と採用を検討している場合は、まず次の項目を確認してみてください。
- 現在の借入残高
- 毎月の返済額
- それぞれの返済が終わる時期
- 追加借入後の返済額
- 顧客からの入金日
- 外注費を支払う日
- 採用後の給与と社会保険料
- 3か月後、1年後、3年後の資金残高
- 3年後に残る借入額
- 売上や入金が計画を下回った場合の資金余力
短期の資金繰りだけを見ると、追加借入によって余裕が生まれるように見えます。
しかし、その後には返済が続きます。
既存返済、追加返済、採用後の固定費を一つの計画に入れることで、実施する順番を判断しやすくなります。
当事務所では、依頼者から提供された既存借入の返済、入金、支払予定と、依頼者が決定した追加借入・採用・外注の前提を一つの資金計画資料に整理します。
当事務所は、経営者が自ら判断・決定した内容に基づき、融資申請書類・資金計画の作成と、そのための事実関係・数値の整理を支援します。