※本事例は実際の相談内容をもとに再構成したモデルケースです。守秘義務に配慮し、企業や人物を特定できないよう、業種、規模、時期、金額など一部の情報を加工・変更しています。
売上があり、決算上も大きな赤字ではない。それでも、月末になると手元資金が少なくなる。
IT受託会社では、こうした状態が起こることがあります。
原因は、売上不足とは限りません。顧客からの入金より先に、人件費や外注費を支払う資金構造が影響している場合があります。
今回は、依頼者から提供された入金条件、外注費・人件費の支払予定、既存借入の返済予定を資金計画資料へ反映したWeb制作会社の事例です。
相談前の状況
相談の対象となったのは、年商4,000万~5,000万円台のWeb制作会社です。
Web制作を中心に、デザイン、コーディング、開発補助などを外部パートナーと連携して行っていました。
売上が大きく落ち込んでいたわけではありません。
既存顧客からの紹介があり、一定数の案件も動いていました。月次資料を見ても、大きな赤字が続いている状態ではありませんでした。
それでも、代表は月末の口座残高に不安を感じていました。
売上はある。請求書も発行している。案件も進んでいる。それなのに、手元にお金が残らない。
追加融資を受けるべきか。それとも、借りる前に見直すべきことがあるのか。
そこが相談の出発点でした。
経営者が感じていた不安や迷い
代表が迷っていたのは、追加融資の必要性でした。
口座残高を増やすには、借入が分かりやすい選択肢に見えます。
しかし、融資を受ければ、その後は毎月の返済が始まります。
現在の資金不足の原因が分からないまま借りると、借入金を使った後に同じ状況が繰り返される可能性があります。
一方で、資金が少ない状態を放置すれば、外注費や給与の支払い、今後の案件への対応に影響するかもしれません。
代表が必要としていたのは、借りるか借りないかという結論よりも、現在の資金構造を確認するための材料でした。
数字や契約条件を整理して分かったこと
最初に、依頼者から提供された3か月先までの入金予定と支払予定を資金計画資料に整理しました。
確認したのは、次の項目です。
- 現在の手元資金
- 毎月の人件費
- 案件ごとの売上と入金予定日
- 顧客との入金条件
- 外注費の金額と支払日
- 既存借入の返済額
- 毎月発生する固定費
- 月末時点の資金残高
整理すると、資金が残らない主な理由は、単純な売上不足ではありませんでした。
この会社では、顧客からの入金がおおむね60日後でした。売上を計上しても、実際に現金になるまで時間があります。
一方、デザインやコーディング、開発補助にかかる外注費は、それより前に支払う案件がありました。
給与や社会保険料などの人件費も、毎月決まった時期に支払います。
資金の流れは、次のようになっていました。
- 案件を受注する
- 社内と外部パートナーが作業する
- 人件費や外注費を支払う
- 納品と検収を終える
- 顧客へ請求する
- 売上代金が入金される
利益が見込まれていても、現金が入るまでの支払いを会社が負担しなければなりません。
入金条件、外注費の支払条件、固定人件費の重なりが、手元資金を少なくしていました。
案件が増えるほど資金が必要になる構造
案件が増えれば、将来の売上も増えます。
しかし、IT受託会社では、売上が増える前に必要な資金も増えることがあります。
案件が始まれば、社内メンバーの工数が発生します。必要に応じて、外部パートナーへの発注も増えます。
ところが、顧客からの入金が60日後であれば、その間の人件費や外注費は会社が立て替えることになります。
そのため、案件が増えた直後ほど、口座残高が減ることがあります。
これは、案件を受けることが悪いという意味ではありません。
受注する前に、入金までに必要な資金を確認する必要があるということです。
書類作成にあたり整理した内容
当事務所は、融資の可否や申込みの要否を判断せず、依頼者が判断するための前提資料を作成しました。
まず、依頼者から提供された入出金実績と契約上の入金・支払時期を時系列に整理しました。
確認したのは、次の点です。
- 現在の資金不足は一時的な入金のずれによるものか
- 毎月の固定費が重くなっていないか
- 外注費の支払条件が資金を圧迫していないか
- 案件が増えた場合、先にいくら必要になるか
- 現在の手元資金で固定費を何か月分賄えるか
- 借入後の返済を含めても資金が残るか
固定費を何か月分賄えるかという見方は、資金余力を確認する一つの方法です。
ただし、すべての会社に共通する安全な月数があるわけではありません。
継続案件が多く、毎月の入金を予測しやすい会社と、大型の単発案件が中心の会社では、必要な資金余力が異なります。
そこで、固定費に加え、依頼者から提供された案件ごとの入金予定と外注費の支払予定を同じ資料に反映しました。
また、依頼者が指定した借入額・返済予定を前提として、借入後の資金推移を資料上に示しました。
経営者が判断できるようになったこと
整理した結果、売上が足りないから資金が残らないのではなく、入金までの期間と外注費の支払時期にずれがあることが見えてきました。
人件費も毎月発生するため、案件が増えるほど先に必要となる資金も増えます。
代表は、追加融資を検討する前に、次の項目を確認できるようになりました。
- 案件ごとの入金条件
- 外注費の支払時期
- 3か月先までの資金残高
- 会社に残しておきたい最低限の資金
- 借入後の返済を含めた資金余力
これにより、依頼者は融資の要否を判断するための入金・支払・返済予定を資料上で確認できるようになりました。
融資を受けるかどうか、希望額や返済条件をどうするかは、経営者が金融機関等とも相談して決定する事項です。
この事例から分かる一般的なポイント
売上と利益、手元資金は、それぞれ意味が異なります。
売上が計上されても、顧客から入金されるまでは、会社の口座残高は増えません。
利益が出る案件でも、入金前に人件費や外注費を支払えば、手元資金は一時的に減ります。
特にIT受託会社では、次の条件が重なると、売上があるのにお金が残りにくくなります。
- 顧客からの入金までの期間が長い
- 外注費の支払いが入金より早い
- 人件費などの固定費が大きい
- 複数案件が同じ時期に始まる
- 検収の遅れによって請求時期が後ろへずれる
- 既存借入の返済が続いている
この状態で融資を受けることが、必ずしも間違いというわけではありません。
大切なのは、必要な資金の額と期間を把握し、返済開始後も会社が無理なく回るかを確認することです。
同じような状況の経営者が確認したいこと
売上はあるのに手元資金が増えない場合は、まず今後3か月の入金と支払いを月ごとに並べてみてください。
特に確認したいのは、次の項目です。
- 売上代金が実際に入金される日
- 検収が遅れた場合の請求条件
- 外注費を支払う日
- 毎月の人件費と固定費
- 既存借入の返済額
- 各月末に残る資金
- 入金が遅れた場合にも支払いを続けられるか
原因を整理する前に、追加融資だけで対応しようとすると、借入後に返済負担が加わります。
反対に、黒字だから問題ないと考えるだけでは、入金前の支払いに対応できないことがあります。
融資、採用、外注の判断は、入金と支払いを同じ時間軸に置くことで見え方が変わります。
当事務所では、依頼者から提供された入金条件、外注費・人件費・固定費の支払予定、既存借入の返済予定を資金計画表に整理します。
当事務所は、経営者が自ら判断・決定した内容に基づき、融資申請書類・資金計画の作成と、そのための事実関係・数値の整理を支援します。
※当事務所は、融資・採用・外注・契約条件・経営方針の可否判断、契約内容の法的判断、投資助言、税務・会計相談、金融機関や取引先との交渉・代理を行いません。融資の実行結果も保証しません。必要に応じて、税理士、弁護士その他の専門家へご相談ください。