※本事例は実際の相談内容をもとに再構成したモデルケースです。守秘義務に配慮し、企業や人物を特定できないよう、規模、時期、数値など一部の情報を加工・変更しています。
下請けから元請けへ移り、案件単価が上がれば、会社に残るお金も増えるように思えます。
しかし、必ずしも資金繰りが楽になるとは限りません。
元請けの請負案件では、納品や検収を終えるまで請求できないことがあります。その間も、人件費や外注費は支払わなければなりません。
単価が上がっても、入金までに会社が負担する金額と期間が増えれば、手元資金は少なくなることがあります。
今回は、依頼者から提供された準委任・請負案件の契約条件、入金予定、先行支出、返済予定を資金計画資料へ反映した事例です。
相談前の状況
相談の対象となったのは、受託開発と一部のSESを組み合わせて事業を行うIT受託会社です。
正社員は4~6名程度で、複数の外部パートナーとも連携していました。
それまでの中心は、稼働時間などに応じて月ごとに請求しやすい準委任案件でした。
ところが、直近では顧客と直接契約する元請けの請負案件が増えていました。見積金額や案件単価も、以前より高くなっていました。
表面上は、会社が一段成長したように見えます。
しかし、社長が感じていたのは安心ではありませんでした。
「案件単価は上がっているのに、自由に使えるお金が増えた感じがしない」
その違和感が相談の出発点でした。
経営者が感じていた不安や迷い
元請け案件を増やす方針は間違っていないと思う一方、このまま同じ速度で増やしてよいのか、社長は迷っていました。
資金を補うため、追加借入も選択肢に入っていました。
ただ、借入だけで対応してよいのかは分かりません。
単価や利益率が上がっているにもかかわらず資金が残らない原因を確認しなければ、必要な借入額も判断できないからです。
また、資金面だけでなく、元請けとしての要件調整や進行管理に社内の時間を多く使うようになっていました。
案件単価、利益、資金回収、社内の負担を一緒に見る必要がありました。
数字や契約条件を整理して分かったこと
最初に、準委任案件と請負案件を分けて、契約から入金までの流れを確認しました。
準委任案件では、毎月の稼働分を月末に締めて請求しやすいため、入金まで60日程度かかる場合でも、資金の流れを比較的予測しやすい状態でした。
一方、請負案件では、稼働したことではなく、納品物の検収が請求の起点になります。
納品後に修正が発生すると、検収が終わるまで請求できません。請求時期が遅れれば、入金も後ろへずれます。
その間にも、次の費用は発生します。
- 社内メンバーの人件費
- 外部パートナーへの外注費
- プロジェクト管理に使う社内工数
- 毎月の固定費
- 既存借入の返済
元請けになったことで案件単価は上がっても、会社が先に負担する金額と期間も増えていました。
元請け比率が上がった後の資金の変化
この会社では、固定費、通常の外注費、既存借入の返済を合わせると、毎月の実質的な支出はおおむね300万円台後半でした。
自由に使える資金は、その支出の2か月台後半に相当する水準でした。
準委任案件が中心であれば、月ごとの入金をある程度予測できました。
しかし、請負案件の比率が5割を超えた頃から、資金の動きが変わっていました。
検収が1か月遅れるだけで、固定費などを賄える期間が2か月を下回る可能性が見えてきたのです。
問題は、利益率が低いことではありませんでした。
粗利益が改善していても、入金までに会社が何か月分の支出を負担するのかを確認しなければ、資金繰りの安全性は判断できません。
書類作成にあたり整理した内容
当事務所では、追加借入の可否を判断するのではなく、依頼者から提示された次の3つの観点を資金計画資料に整理しました。
1.固定費を何か月分賄えるか
自由に使える資金を、固定費、通常の外注費、既存返済と比較しました。
このモデルケースでは、依頼者が確認・決定した想定として、請負案件の検収が1か月遅れた場合と、2.5か月前後の支出を賄う場合の数値を資料へ反映しました。
これは、すべての会社に当てはまる基準ではありません。
この想定は、依頼者が自社の案件構成、毎月の支出、入金予定を踏まえて設定したものです。
同じIT受託会社でも、必要な資金余力は異なります。
2.請負案件で何か月分を立て替えるか
請負案件ごとに、外注費や人件費を何か月先行して負担するのかを確認しました。
このモデルケースでは、立替期間が2か月を超える場合、案件の利益とは別に、その期間をつなぐ運転資金を検討する必要がありました。
利益が出る案件でも、入金までの時間差に対応できなければ、月末の支払いが苦しくなる可能性があります。
3.借入を想定した返済後の資金残高
依頼者が借入の要否・金額を判断するため、返済開始後の資金残高と、依頼者が決定した採用・外注・営業投資の予定を資料上に示しました。
3か月先までの資金を見たとき、固定費を賄える期間が大きく短くならないかも試算しました。
借入は、一時的な不足を補う選択肢です。
借入の要否・金額、採用、外注、営業投資などの経営判断は、依頼者が金融機関や各専門家とも相談して決定する事項です。
経営者が判断できるようになったこと
最初に行ったのは、融資資料の作成ではありませんでした。
まず、準委任案件と請負案件を分けました。
それぞれの請求条件と入金予定月を確認し、請負案件ごとに外注費の先行額と検収予定を整理しました。
そのうえで、依頼者が比較条件として指定した次の2つを資料に反映しました。
- 現在の速度で元請けの請負案件を増やす場合
- 元請け化の速度を少し抑える場合
これにより、依頼者は元請け化によって増える資金の時間差を、会社として何か月分まで負担できるかを資料上で確認できるようになりました。
追加借入の要否・必要額は依頼者が金融機関等とも相談して決定し、当事務所は案件別の先行支出と返済予定を示す資料を整えました。
この事例から分かる一般的なポイント
元請け比率が上がることは、会社にとって前向きな変化です。
顧客と直接向き合い、案件の主導権を持ち、取引条件や単価を自社で検討しやすくなります。
一方で、資金繰りまで自動的に改善するわけではありません。
元請けの請負案件が増えると、次のような変化が生じる場合があります。
- 請求の起点が月々の稼働から検収へ変わる
- 修正によって検収が遅れる
- 要件調整や進行管理の負担が増える
- 外注費や人件費の先行負担が大きくなる
- 一つの案件で会社が立て替える期間が長くなる
そのため、売上や利益率だけでなく、入金と支払いの時期を確認する必要があります。
案件単価が高くても、検収が遅れ、先行支出が大きければ、手元資金は減ります。
元請け化を進める際は、その成長速度を支えられる資金があるかを一緒に確認することが大切です。
同じような状況の経営者が確認したいこと
準委任案件から請負案件へ移行している場合は、次の点を確認してみてください。
- 月々の稼働で請求できる案件はいくつあるか
- 納品と検収が終わるまで請求できない案件はいくつあるか
- 検収の条件が契約書や発注書に明記されているか
- 修正が発生した場合、請求時期はどうなるか
- 各案件の入金予定日はいつか
- 外注費を支払う日はいつか
- 入金までに何か月分の費用を負担するか
- 検収が1か月遅れても固定費と返済を支払えるか
- 元請け案件を増やした場合の資金残高はどう変わるか
単価が上がることと、資金繰りが楽になることは同じではありません。
社長が感じる「売上は伸びているのに、なぜか楽にならない」という違和感には、入金と支払いの時間差が関係していることがあります。
当事務所では、依頼者から提供された準委任・請負の契約条件、検収予定、外注費の支払予定、既存借入の返済予定を同じ資金計画表にまとめます。
当事務所は、経営者が自ら判断・決定した内容に基づき、融資申請書類・資金計画の作成と、そのための事実関係・数値の整理を支援します。
※当事務所は、借入・受注・契約条件・経営方針の可否判断、契約内容の法的判断、投資助言、税務・会計相談、金融機関や取引先との交渉・代理を行いません。融資の実行結果も保証しません。必要に応じて、税理士、弁護士その他の専門家へご相談ください。