※守秘義務に配慮し、企業や人物を特定できないよう、規模・時期・金額など一部の情報を加工・変更しています。
複数の案件が黒字でも、会社の手元資金が増えるとは限りません。
IT受託会社では、開発に必要な人件費や外注費を先に支払い、顧客からの入金は検収後になることがあります。
複数案件が同時に進むほど、売上の入金より前に出ていくお金も増えます。そのため、利益が見込まれていても、月末の資金が一時的に少なくなることがあります。
今回は、依頼者から提供された案件別の入金予定、支払予定、借入返済予定を月別の資金計画資料へ反映した事例です。
相談前の状況
ご相談いただいた会社では、複数の開発案件が同時に進んでいました。
各案件の見積書を見ると、いずれも利益が見込まれていました。売上の見通しもあり、受注が不足していたわけではありません。
一方で、案件を進めるための支払いは、売上の入金より先に発生していました。
主な支出は、次のようなものでした。
- 外注費
- 人件費
- 広告費
- 業務用ツールの利用料
- サーバー費
- 既存借入の返済
売上代金は検収を終えた後に請求し、入金はさらにその翌月以降になる契約でした。
案件単位では黒字でも、会社全体で見ると、入金を待つ間の資金負担が大きくなっていました。
経営者が感じていた不安や迷い
経営者が感じていたのは、「売上は増えているのに、なぜ月末の資金が減るのか」という不安でした。
受注を増やせば、将来の売上は増えます。しかし、案件を始めるための外注費や人件費も先に必要になります。
さらに、既存借入の返済も続いていました。
追加案件を受けてよいのか。手元資金を厚くするために借入を検討すべきか。あるいは、顧客や外注先との支払条件を見直すべきか。
売上と利益だけでは、どの方法が会社に合っているのか判断しにくい状況でした。
数字や契約条件を整理して分かったこと
まず、案件ごとの入金予定と支払い予定を、会社全体の資金繰り表にまとめました。
確認したのは、次の項目です。
- 案件ごとの売上金額と入金予定日
- 外注費の金額と支払日
- 人件費の支払日
- 広告費、ツール費、サーバー費
- 既存借入の返済額と返済日
- 月末時点で残る資金
- 手元資金で固定費を何か月分賄えるか
月別に並べると、数か月後には売上の入金によって資金が回復する見込みがありました。
一方で、その入金を迎える前に、月末資金が固定費1か月分を下回る可能性も見えてきました。
つまり、案件が赤字だから資金が減っていたのではありません。
外注費などの支払いが先に発生し、売上代金が後から入るという時間差が、月末資金を少なくしていたのです。
書類作成にあたり整理した内容
当事務所では、依頼者から提供された情報をもとに、3~6か月先までの月次資金計画資料を作成しました。
一つの予測だけを作るのではなく、複数の状況を比較しました。
- 予定どおり入金された場合
- 入金が遅れた場合
- 複数案件を予定どおり進めた場合
- 追加案件を受けた場合
- 必要な運転資金を借り入れた場合
- 入金条件や外注費の支払条件を見直した場合
そのうえで、依頼者が借入の要否・金額を判断するため、借入を想定した場合の返済開始後の資金残高を資料上に示しました。
融資を受けられる金額と、無理なく返せる金額は、必ずしも同じではありません。
借入によって一時的な資金不足を補えても、その後は毎月の返済が始まります。そのため、借入直後だけでなく、返済開始後の資金残高まで見る必要があります。
また、依頼者から提示された案件ごとの契約条件を、入出金時期を確認するための前提資料として整理しました。
前金・着手金、請求時期、分割請求、外注先への支払条件などの変更は、依頼者が取引先との関係や契約内容を踏まえ、必要に応じて弁護士等へ相談して判断する事項です。
当事務所は、依頼者が確認・決定した契約条件を資金計画資料へ反映しました。取引先との交渉・代理は行っていません。
経営者が判断できるようになったこと
資金繰り表を作ることで、資金が少なくなる時期と、その後に回復する見込みを区別できるようになりました。
これにより、単に「お金が足りない」と考えるのではなく、次の点を確認して判断できる状態になりました。
- いつ、いくら不足する可能性があるか
- その不足は一時的なものか
- 入金が遅れた場合にも支払いを続けられるか
- 追加案件を受ける余力があるか
- 借入後の返済を含めても会社が回るか
- 契約条件の見直しで負担を減らせないか
借入をするかどうかの結論は依頼者が決定しました。
依頼者が借入、契約条件、案件の進め方を検討するため、必要資金の額と期間を示す資料を整えました。
この事例から分かる一般的なポイント
黒字と資金繰りは、同じものではありません。
利益は、売上と費用の差を表します。一方、資金繰りは、実際にお金が入る日と出ていく日を表します。
たとえば、利益が見込まれる案件でも、外注費を先に支払い、売上代金が2か月後に入る場合、その間の運転資金が必要です。
複数案件が同時に始まると、この時間差も重なります。
そのため、案件が増えている会社ほど、次の項目を同じ時間軸で確認することが大切です。
- 売上の入金日
- 人件費と外注費の支払日
- 固定費の支払日
- 借入金の返済日
- 月末の資金残高
- 入金が遅れた場合の資金余力
受注の増加は、会社にとって成長の機会です。
ただし、支払いに必要な資金を確認しないまま案件を増やすと、売上が伸びている途中で資金が足りなくなることがあります。
案件ごとの利益と、会社全体の資金の動きを両方見る必要があります。
同じような状況の経営者が確認したいこと
複数案件が同時に動いている場合は、まず今後3か月の入金と支払いを日付順に並べてみてください。
特に確認したいのは、次の点です。
- 顧客からの入金日はいつか
- 検収が遅れた場合、入金日も遅れる契約か
- 外注費はいつ支払うのか
- 給与や社会保険料はいくら必要か
- 借入金の返済日はいつか
- 月末にいくら残る見込みか
- その資金で固定費を何か月分賄えるか
見積書で利益が出ていても、入金までの資金を確保できなければ、安心して案件を進めることはできません。
まずは、入金と支払いを月別に並べることが出発点です。
当事務所では、依頼者から提供された案件の入金条件、外注費等の支払予定、既存借入の返済予定を一つの資金計画表にまとめます。
当事務所は、経営者が自ら判断・決定した内容に基づき、融資申請書類・資金計画の作成と、そのための事実関係・数値の整理を支援します。
※当事務所は、借入・案件選択・契約条件・経営方針の可否判断、投資助言、税務・会計相談、金融機関や取引先との交渉・代理を行いません。融資の実行結果も保証しません。必要に応じて、税理士、弁護士その他の専門家へご相談ください。