※守秘義務に配慮し、企業や人物を特定できないよう、規模・時期・金額など一部の情報を加工・変更しています。
税理士、社会保険労務士、金融機関へ相談しても、最後に「結局、自社ではどう決めればよいのか」と迷うことがあります。
これは、専門家の説明に問題があるとは限りません。
借入、採用、外注、税金、社会保険、契約条件など、複数の論点が社長の頭の中で混ざっていることが原因の場合があります。
今回ご紹介するのは、各専門家へ相談する前に、依頼者から提供された事実関係、数値、確認事項を相談用資料に整理したIT受託会社の事例です。
相談前の状況
相談者は、受託開発を行うIT会社の経営者です。
既存顧客からの案件はありましたが、今後の事業運営について複数の判断を抱えていました。
- 正社員を採用するか
- 外注を増やすか
- 新しい案件を受けるか
- 追加借入について金融機関へ相談するか
- 既存返済を続けながら投資できるか
税理士との契約や金融機関との取引はあり、必要に応じて社会保険労務士へ相談できる状況でした。
それでも、何を誰に聞けばよいか整理できず、相談の準備が進まない状態でした。
経営者が感じていた不安や迷い
経営者の頭の中では、次の問題が同時に動いていました。
- 採用したいが、人件費を継続して支払えるか
- 外注を増やしたいが、利益と資金が残るか
- 借入を検討したいが、既存返済もある
- 税金の支払い時期を含めた資金繰りが分からない
- 採用した場合の社会保険料や労務上の準備を確認したい
- 金融機関に何を説明すればよいか分からない
- 専門家の意見を、最終的な経営判断へどうつなげるか
「採用してもよいですか」「借りた方がよいですか」と質問しても、前提条件が整理されていなければ、一つの答えを得ることは難しくなります。
まず、不安を論点ごとに分ける必要がありました。
数字と相談事項を整理して分かったこと
最初に、社長が抱えている事項を次のように分けました。
- 資金繰りに関すること
- 税務に関すること
- 採用・労務に関すること
- 借入に関すること
- 契約条件に関すること
- 社長自身が決めること
次に、今後12か月の入金と支払いを整理しました。
確認した項目は次のとおりです。
- 案件ごとの入金予定
- 給与と社会保険料
- 外注費
- 既存借入の返済
- 納税予定
- 採用した場合の費用
- 追加借入を行った場合の返済
- 投資や臨時支出
- 返済後に残る現預金
整理すると、問題は相談先がないことではなく、複数の相談内容が混ざっていることだと分かりました。
資金の流れを一つの表へまとめることで、各専門家へ何を確認すべきかも具体的になりました。
専門家相談前に整理した資料
当事務所では、税務・労務・法務・融資・経営上の判断を行わず、依頼者から示された事実関係、数値、各専門家への確認事項を相談用資料に整理しました。
税理士へ確認すること
- 直近の試算表
- 利益の見通し
- 納税額と支払時期
- 採用や投資が損益へ与える影響
- 会計処理や税務上の取扱い
税額や税務処理の判断は、税理士へ確認します。
社会保険労務士へ確認すること
- 雇用契約
- 労働条件
- 社会保険の加入と費用
- 就業規則
- 採用後の労務管理
労働・社会保険に関する個別判断や手続は、社会保険労務士へ確認します。
金融機関へ相談すること
- 資金の使い道
- 必要となる時期
- 現在の借入残高と返済予定
- 今後の収支・資金繰り
- 返済原資の考え方
- 準備が必要な資料
融資の可否、金額、金利、返済条件などは、金融機関等の審査によって決まります。
社長自身が決めること
- 正社員を採用するか
- 外注で対応するか
- どの案件を受けるか
- いつ投資するか
- どこまでリスクを取るか
- 最低限残したい手元資金
- 実行を見直す条件
専門家は判断材料を提供できますが、会社全体として何を選ぶかは、社長が決める事項です。
依頼者が指定した複数の前提を資料に反映
依頼者が比較対象として指定した次の前提について、入金・支払・返済後の現預金を資金計画表に反映しました。
- 正社員を採用する
- 採用時期を変更する
- 外注で対応する
- 採用と外注を併用する
- 追加借入を利用しない
- 金融機関へ追加借入を相談する
- 一部の案件を見送る
- 投資時期を変更する
それぞれについて、依頼者から提供された入金予定、支払予定、返済後の現預金を資料上に示しました。
ここで確認したのは、「実行できるか」だけではありません。
計画が予定より遅れた場合の確認条件は依頼者が決定し、当事務所はその条件を資金計画表へ反映しました。
経営者が判断できるようになったこと
整理後は、各専門家へ相談するときに、目的と質問を分けられるようになりました。
経営者が確認できるようになったのは、次の点です。
- 税理士へ確認する数字
- 社会保険労務士へ確認する採用条件
- 金融機関へ説明する資金の使い道
- 当事務所が資料化する入金・支払・返済予定
- 社長自身が最終的に決めること
- 相談前に準備する資料
- 専門家の回答を得た後に再確認する資金繰り
採用、外注、案件選択、投資、借入などの結論は、依頼者が各専門家や金融機関とも相談して決定しました。
当事務所は、相談事項と各専門家への確認事項を分け、依頼者が判断する際に参照できる資料を整えました。
この事例から分かる一般的なポイント
複数の専門家へ相談するときは、「誰が正しいか」を決めるのではなく、それぞれの専門分野を分けて考えることが大切です。
例えば、採用については次の論点があります。
- 労働条件や社会保険
- 人件費と税務
- 採用後の資金繰り
- 必要であれば借入の検討
- 現場で本当に人が必要か
- 社長がどのリスクを取るか
これらは一人の専門家だけで完結する問題ではありません。
最初に会社全体の論点を整理すると、各専門家への質問が具体的になり、得た回答も経営判断に使いやすくなります。
同じような状況の経営者が確認したいこと
専門家へ相談する前に、次の4つへ分けて書き出してみてください。
- 税理士へ確認したいこと
- 社会保険労務士へ確認したいこと
- 金融機関へ相談したいこと
- 社長自身が決めること
あわせて、次の資料を準備します。
- 直近の試算表
- 今後12か月の入金予定
- 人件費と外注費
- 既存借入の返済予定
- 納税予定
- 採用・投資計画
- 主要案件の契約条件
- 実行後の資金繰り表
専門家へ何を相談すべきか整理したい場合は、IT受託会社向け 資金戦略診断をご確認ください。税務・労務・融資審査等をACTIONが代わりに判断するサービスではありません。
※当事務所は、税務・会計相談、労務・社会保険上の個別判断・手続、契約内容の法的判断、融資・採用・外注・投資・経営方針の可否判断、金融機関や取引先との交渉・代理を行いません。各専門家・金融機関の判断や結果も保証しません。必要に応じて、税理士、社会保険労務士、弁護士その他の専門家へご相談ください。