行政書士
佐野 雅彦
行政書士事務所ACTION代表。
IT受託会社の借入・返済・追加融資・資金繰りを一体で見ながら、
その場しのぎではない資金の整え方を支援しています。
地方公務員として25年間、制度運用と相談対応に携わった経験を踏まえ、
現在は、返済を続けながら次の借入や投資を進められるかという視点で、記事監修と実務支援を行っています。
このページでは、IT受託会社の経営者に向けて、借入・返済・追加融資・投資判断まで見据えた資金戦略の実務情報を掲載しています。
[3.創業融資関連アーカイブ]
創業時の資金戦略は、融資が通るかより先に、運転資金を何カ月分持つかで考えるべきです。借入判断の前提条件を整理します。
目次
創業相談の場では、今でも「この計画書なら通るか」「自己資金が少ないが借りられるか」という問いが少なくありません。
もちろん、資金調達の可否は重要です。
ですが、経営判断として先に置くべき論点は別にあります。
本当に問うべきなのは、その事業は、どのくらいの資金余力を持って始めるべきかという点です。
ここを取り違えると、計画書は整っていても、開業後の資金繰りで苦しくなります。
創業時に見落とされやすい盲点は、必要資金を「開業に必要なお金」で止めてしまい、開業後に売上が計画どおり立ち上がらない期間をどう耐えるかまで設計していないことです。
日本政策金融公庫の2024年度新規開業実態調査では、開業費用の平均値は985万円、中央値は580万円です。
一方で、調査時点の予想月商達成率は59.6%にとどまっており、開業時に苦労したこととして「資金繰り・資金調達」が59.2%で最も高くなっています。
開業時点の必要額を埋めるだけでは足りず、売上の立ち上がりの遅れまで含めて資金設計を考える必要があることが示唆されます。
創業期の資金戦略でまず分けて考えるべきなのは、設備資金と運転資金です。
設備資金は、店舗、内装、機械、車両、システムなど、事業開始前後にまとまって出る資金です。これに対して運転資金は、家賃、人件費、外注費、仕入、広告費、返済、社会保険料など、事業が動き始めてから継続して出ていく資金を指します。
実務上、問題になりやすいのは後者です。
設備は一度見積もれば把握しやすい。
ところが運転資金は、売上が読みにくい段階ほど過小評価されやすい。
日本政策金融公庫の同調査では、開業時の資金調達額は平均1,197万円で、そのうち「金融機関等からの借り入れ」が平均780万円、「自己資金」が平均293万円と、両者で89.6%を占めています。つまり、多くの創業者は借入と自己資金を組み合わせて始めていますが、その資金の配分が設備寄りになりすぎると、創業後の資金繰りに余白が残りにくくなります。
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、2026年3月時点でも、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方を対象に、設備資金・運転資金の両方に対応しています。
融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内です。制度として借入余地があること自体は事実ですが、ここで限度額から逆算して必要額を考えるのは順序が逆です。
資金戦略で先に整理すべきなのは、
「売上が計画比で7割に届かない期間が何カ月あり得るか」
「その間、固定費はいくら流出するか」
「入金は現金商売か、請求後1〜2カ月後か」
という前提です。
創業時の借入を小さく抑えたい気持ちは理解できます。
ただ、借入額を小さく見せることが健全なのではありません。
不足するたびに後追いで資金を探す構造の方が、経営の自由度を落とします。
いったん創業してからの追加調達は、時間の使い方も含めて負担が重くなりやすいからです。
創業時の資金戦略では、まず月次の固定的支出を把握することです。
ここでいう固定的支出は、家賃、人件費、役員報酬の最低額、外注の固定契約分、リース料、通信費、保険料、返済予定額など、売上が伸びなくても出ていく資金を指します。
そのうえで、ひとつの目安として次のように考えると整理しやすくなります。
現金回収が早い、在庫を持たない、固定費が低い、少人数で開始できる、前受金や月額課金がある。
この条件がそろうなら、固定的支出の3カ月分前後を下限として設計する考え方はあり得ます。
創業時に最も多いのはこの領域です。
売上の立ち上がりに時間がかかる、広告費や採用費が先に出る、仕入が先行する、単月黒字化の時期に幅がある。
この場合、固定的支出の6カ月分程度を持って始める発想の方が現実的です。
BtoBで入金サイトが長い、工事・制作・受託で検収まで時間がかかる、設備投資が重い、粗利率が安定するまで時間を要する。
こうした場合は、固定的支出の9カ月分以上を前提にした方が安全側の設計になりやすいでしょう。
これは正解を断定する数字ではありません。
大切なのは、借入希望額を先に置くのではなく、自社の資金流出速度と資金化までの時間差から逆算することです。
創業計画では、どうしても売上見込みに意識が向きます。
ですが、資金戦略上より重要なのは、売上計画が未達だったときにどれだけ耐えられるかです。
前掲の調査でも、調査時点の採算状況は「黒字基調」67.3%、「赤字基調」32.7%でした。
黒字企業が多数でも、裏を返せば約3割は赤字基調です。
しかも、予想月商達成率は59.6%ですから、創業初期に計画未達が起きること自体は、例外というより織り込むべき前提だと考えた方がよいでしょう。
ここで必要なのは、強気の売上計画ではありません。
「売上が計画の70%でも返済と固定費は回るか」
「売上ゼロに近い月が2〜3カ月あっても持つか」
「入金遅れが起きたときに、追加借入なしで吸収できるか」
という下振れ前提の設計です。
この論点は、業種をまたいで一般論化しすぎると危うくなります。
たとえば、現金回収が早い小売・サービスと、請求後入金まで時間がかかる法人向け受託では、必要な運転資金は大きく異なります。
在庫を持つ業種と、ほぼ在庫を持たない業種でも違います。
人件費比率が高い業種は、売上が立つまでの固定費耐性がより重要です。
2025年版中小企業白書・小規模企業白書でも、物価高、人手不足、金利上昇、生産・投資コストの増加といった経営環境の厳しさが示されています。
創業期ほど「環境変化に耐える余力」を軽く見積もらない方がよい局面です。
創業時の資金戦略で見るべきなのは、事業計画書の見せ方より、資金が減る速度と資金化までの時間差です。
借入は、通るかどうかだけで考えると判断を誤ります。
限度額があることと、自社にとって妥当な借入額であることは別だからです。
創業前に整理すべきなのは、設備にいくら使うかより先に、運転資金として何カ月分の余力を持つか。
その基準を、固定費、入金条件、在庫負担、売上立ち上がり期間から逆算しておくことです。
資金戦略は、一般論だけで決められるものではありません。
業種や固定費構造、入金条件によって最適解は変わります。
重要なのは、「借りられるか」ではなく「今、借りるべきか」を判断できる状態をつくることです。
まずは自社の前提条件を整理することから始めてみてください。
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_241127_1.pdfhttps://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.htmlhttps://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdfhttps://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/shokibo/b2_1_1.html当事務所は、IT受託会社について、
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