行政書士
佐野 雅彦
行政書士事務所ACTION代表。
IT受託会社の借入・返済・追加融資・資金繰りを一体で見ながら、
その場しのぎではない資金の整え方を支援しています。
地方公務員として25年間、制度運用と相談対応に携わった経験を踏まえ、
現在は、返済を続けながら次の借入や投資を進められるかという視点で、記事監修と実務支援を行っています。
このページでは、IT受託会社の経営者に向けて、借入・返済・追加融資・投資判断まで見据えた資金戦略の実務情報を掲載しています。
[3.創業融資関連アーカイブ]
創業時の資金戦略を、事業計画書の書き方ではなく資金余力の設計から考える記事。固定費、入金サイト、耐久月数を軸に判断基準を整理します。
目次
創業時の相談で、いまでも少なくないのが「事業計画書はどう書けばよいか」という問いです。
もちろん、計画を言語化する作業は必要です。
日本政策金融公庫の創業計画書でも、「資金計画」や「事業の見通し(月平均)」が求められており、創業時に数字を整理すること自体は避けて通れません。
ただ、ここで思考の順番を誤る経営者は少なくありません。
書類の出来を整えることと、事業が資金的に持つことは、同じではないからです。
創業時に本当に問うべきなのは、「いくら借りられるか」より先に、「売上が計画どおりに立ち上がらない期間を、自社はどこまで耐えられるか」です。
日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査では、開業時の資金調達額は平均1,219万円で、そのうち金融機関等からの借り入れが平均827万円、自己資金が平均279万円でした。
借入と自己資金で全体の約9割を占めています。
一方で、現在の採算状況が「赤字基調」という回答も33.0%あります。
創業時に資金を調達できたことと、その後の資金余力が十分であることは、やはり別の問題です。
創業時の資金戦略を考えるうえで、まず見るべきなのは必要資金の総額ではありません。
より重要なのは、固定的に出ていくお金と、入ってくるお金の時間差です。
創業期は、売上の水準そのものよりも、売上が現金化するまでのズレに資金繰りが左右されます。
人件費、家賃、外注費、リース料、借入返済のように、売上が未達でも出ていく支出は止まりません。しかも、法人取引が多い業種では請求から入金まで1か月超のズレが生じることもあります。ここを見ないまま「必要資金は設備資金と当初運転資金で足りる」と考えると、計画書の数字は整っていても、運転開始後に資金が詰まります。
見落とされやすい盲点は、赤字だから資金が足りなくなるのではなく、黒字化の手前でも現金は先に減るという点です。
創業期は、広告費や採用費、先行仕入れ、外注費など、利益計算上は説明できても、現金残高には先に負担が出ます。事業計画書を「審査資料」としてだけ見ると、この時間差への感度が鈍くなります。
創業計画は、本来、金融機関に見せるためだけの書類ではありません。
経営者自身が、どの前提が崩れたときに資金が危うくなるかを把握するための設計図です。
中小企業白書2025年版でも、事業者が支援機関に相談する経営課題として「資金繰り改善」の比重が高いことが示されています。資金の話は、創業直後だけの論点ではなく、事業継続そのものに直結する論点です。
だからこそ、創業時計画で置くべき数字は、売上目標の美しさよりも、前提が外れたときにどこまで持つかに寄せるべきです。
たとえば、次の三つは最低限切り分けて考えたいところです。
家賃、人件費、外注の最低維持額、通信費、システム費、返済予定額など、売上が弱くても発生する月次支出を洗い出します。ここでは「削ればよい」という発想を急がず、まず平時の固定構造を把握することが先です。
現金商売に近い業態と、請求後入金の業態では、必要な運転資金がまったく違います。売上高が同じでも、回収サイトが長ければ資金負担は重くなります。
創業時の売上予測は、当たるか外れるかではなく、遅れた場合の吸収余地があるかで見るべきです。日本政策金融公庫の調査でも、予想月商に対して未達の層はなお一定割合あります。計画未達を異常値として扱うのではなく、一定の幅として織り込む発想が必要です。
では、創業時にどの程度の資金余力を前提に考えるべきか。
ここは一般論で断定すべきではありませんが、判断の置き方はあります。
一つの見方は、月次の固定支出に対して、何か月分の現金余力を持つかです。
たとえば月次固定支出が250万円なら、3か月で750万円、6か月で1,500万円です。ここに、売上入金までのズレが長い業態なら、その分の運転資金を上乗せして考えます。
判断の目安は、次のように整理できます。
ここで重要なのは、「借入額を増やすべきだ」と言いたいのではないことです。
自己資金を厚くするのか、初期投資を小さくするのか、採用時期を後ろにずらすのか、回収条件を見直すのか。経営判断の選択肢は借入額の増減だけではありません。資金戦略とは、調達方法の話ではなく、構造をどう設計するかの話です。
この論点は、業種を限定しないからこそ慎重に見る必要があります。
飲食や小売のように日々現金が入る業種と、建設、制作、システム開発、BtoBサービスのように検収後請求・後入金になりやすい業種とでは、同じ売上規模でも必要な運転資金が違います。
また、在庫を持つ業種は仕入れが先に発生しやすく、人件費比率の高い業種は売上未達時でも支出が下がりにくい。ここを無視して「創業時はこのくらい必要」と一律に語るのは、資金戦略としては粗い見方です。
元の記事のように、計画書の書き方だけを整えても、この業種差までは吸収できません。
重要なのは、自社がどのタイプのキャッシュ構造なのかを先に見極め、その構造に対して資金余力を設計することです。
創業時に必要なのは、見栄えのよい計画書ではありません。
計画どおりに進まない期間があっても、事業を継続できる資金構造を持つことです。
創業計画書は、そのために使うなら意味があります。
しかし、審査を意識しすぎると、どうしても売上の説明や事業の魅力に意識が寄ります。そこで一度立ち止まり、固定費、入金サイト、立ち上がりの遅れ、この三つを先に点検したほうがよい。
創業時の資金戦略で問われるのは、調達の巧拙というより、前提の置き方の妥当性です。数字は希望を書くためではなく、崩れたときにどこが危ういかを知るために置く。その順番を外さないことが、創業時の判断を落ち着かせます。
資金戦略は、一般論だけで決められるものではありません。
業種や固定費構造、入金条件によって最適解は変わります。
重要なのは、「借りられるか」ではなく「今、借りるべきか」を判断できる状態をつくることです。
まずは自社の前提条件を整理することから始めてみてください。
IT受託会社の借入・返済・入金・支払いを整理し、採用や追加借入に使える資金の見通しを整えます。
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