行政書士
佐野 雅彦
行政書士事務所ACTION代表。
IT受託会社から提示された契約書、請求書その他の確定資料をもとに事実関係を整理し、行政書士法その他の法令で認められた範囲で、許認可・補助金等の申請に必要な書類作成や提出手続を支援しています。
地方公務員として26年間、制度運用と相談対応に携わった経験をもとに、制度と手続を分かりやすく整理することを大切にしています。財務分析、会計資料作成、法律判断・交渉、融資のあっせん・交渉、借入・返済・投資等の経営判断は行いません。
許認可・補助金等の申請や契約書作成に必要な資料・手続を、悩みや目的から探せます。
[3.創業融資関連アーカイブ]
創業時に公庫・金融機関へ希望借入額を相談する前に、資金使途、自己資金、売上・支払予定など一般的な確認資料を紹介します。当事務所は適正借入額、返済能力、資金余力等の計算・分析や借入先の選定を行わず、融資額・条件は各金融機関が判断します。
創業融資の相談では、「いくらまで借りられるか」や「計画書をどう書けば伝わるか」という問いが先に立ちがちです。もちろん、計画を言語化する作業は必要です。日本政策金融公庫の創業計画書でも、創業動機や経歴だけでなく、「必要な資金と調達方法」を整理する構成が置かれています。つまり、書式の前提として、そもそも資金計画が固まっていなければならないということです。
ただ、実務で見落とされやすいのは、必要な資金を「開業時に払う金額の合計」としてしか見ないことです。内装、設備、保証金、当初仕入れ。それらを積み上げて必要額を出す発想自体は間違いではありません。しかし、その見方だけだと、開業後に毎月出ていく固定費や、売上が立ってから実際に入金されるまでの時間差が抜け落ちます。資金繰りは、開業日に完成するものではなく、開業後に耐えられるかどうかで評価すべきものです。
ここに、創業時の思考の盲点があります。借入額を小さく抑えることを、慎重な経営だと考えてしまうことです。借入を抑えれば返済負担は軽く見えますが、手元資金が薄い状態で始めれば、売上の遅れ、採用のズレ、追加発注、入金サイトの長さに耐えにくくなります。創業初期の資金戦略は、「最小額で始めること」ではなく、「想定が外れても事業が折れにくい厚みを持たせること」と捉えた方がよい場面が少なくありません。
中小機構のJ-Net21でも、利益が出ていても事業が続けられるとは限らず、在庫の増加や借入元金の返済、売掛金の未回収によって現金が流出すると整理されています。利益と資金は同じではありません。創業期ほど、この差が経営判断を狂わせやすい。黒字化の見込みがあるかどうかと、月末に支払えるかどうかは、別の論点です。
創業時の借入希望額を検討する際は、少なくとも次の三つを資料上で分けて整理します。
一つ目は初期投資資金。設備、内装、保証金、車両、初回仕入れなど、立ち上げるために先に必要な資金です。
二つ目は立上がり赤字への耐久資金。想定売上に届かない数か月を吸収するための資金です。
三つ目は運転資金のギャップを埋める資金。仕入れや人件費の支払いが先に出て、売上回収が後になる時間差を埋めるための資金です。J-Net21でも、運転資金は固定費と変動費に分けて考えること、さらに収入と支出のタイミングが重要だと整理されています。
この三つを混ぜてしまうと、資金計画は曖昧になります。設備資金だけは細かく見積もるのに、開業後三か月の資金流出は甘く置いてしまう。あるいは、売上計画は作っても回収条件を詰めないまま進めてしまう。創業時に本当に問うべきなのは、「何を買うか」より先に、「現金が何か月もつか」です。
実務上、まず置きたいのは「固定費を何か月分持つか」という視点です。ここでいう固定費は、家賃、人件費、通信費、最低限の外注費、リース料など、売上が想定未達でも止まりにくい支出を指します。飲食業向けの日本政策金融公庫資料でも、立地にコストをかける業態は固定費負担が大きく、資本に余裕がなければリスクが高くなると示されています。固定費が大きい場合は、その内訳と手元資金への影響を資金繰り表で整理し、公庫・金融機関へ希望額と返済条件を相談してください。
必要な資金余力は、業種、固定費、入金時期、在庫、先行投資等によって異なります。一律の月数を基準とせず、複数の前提で資金繰り表を作成し、公庫・金融機関へ相談してください。
もう一つの判断基準は、回収サイトと支払いサイトの差です。J-Net21は、建設業では工事完了後に回収となる一方で、人件費や資材費の支払いが先に発生すると指摘しています。また小売業では、在庫が売れなければ入金が遅れ、一括仕入れは売上回収に先行して資金を寝かせることになると整理しています。つまり、同じ月商計画でも、資金需要は業態で大きく変わるということです。
この論点は、業種差を無視すると危うくなります。店舗型サービスは、家賃と人件費が先に立ちやすく、立地を取るほど固定費が重くなります。受託型や建設系は、売上計上より回収が遅れやすく、外注費や材料費が先に出ます。在庫型小売は、仕入れた時点で現金が出ていき、売れ残りがそのまま資金の固定化になります。一方、初期投資が比較的小さく、売上回収が早いモデルでは、必要な余力は相対的に小さくなり得ます。J-Net21でも、古紙回収業のように初期投資負担が軽くキャッシュサイクルが比較的早い業種がある一方、建設業のように回収前の支払い負担が大きい業種もあることが示されています。
だからこそ、「創業時は自己資金を厚く入れるべき」「借入は少ないほどよい」といった一般論は、そのままでは使えません。自己資金を厚く入れることが安全につながる場合もありますが、運転資金の見立てが甘ければ、それだけで安全になるわけではない。逆に借入額が一定程度大きくても、固定費構造と回収条件を踏まえて余力が確保されているなら、資金戦略としては整っていることがあります。
創業融資を検討する際は、審査を意識した表現だけでなく、開業後の資金繰りと返済見通しを説明できる資料を整えることが重要です。必要資金の総額を出すことは出発点にすぎません。その後に、固定費、売上入金までの日数、在庫や先行投資の影響を確認し、借入希望額と返済見通しを公庫・金融機関へ説明してください。
創業時の借入額は一般論だけで決められるものではありません。
業種、固定費構造、入金条件、資金使途等によって確認事項は異なります。
当事務所が借入額や借入の適否を判断するものではなく、融資の可否・金額・条件は公庫・金融機関が審査・判断します。
まずは自社の前提条件を整理することから始めてみてください。
中小企業庁「2025年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」
URL: https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/2025gaiyou.pdf
日本政策金融公庫「創業を志す方への参考情報」
URL: https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/startup-guide/
日本政策金融公庫「創業計画書」
URL: https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/kaigyou00_190507b.pdf
日本政策金融公庫「創業の手引+(飲食版)」
URL: https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/pdf/sougyou_tebiki_insyoku2509.pdf
中小機構 J-Net21「資金繰りとは」
URL: https://j-net21.smrj.go.jp/startup/manual/list4/4-1-4.html
中小機構 J-Net21「運転資金の考え方(飲食業)」
URL: https://j-net21.smrj.go.jp/startup/manual/list9/9-2-6.html
中小機構 J-Net21「運転資金の考え方(小売業)」
URL: https://j-net21.smrj.go.jp/startup/manual/list9/9-1-6.html
中小機構 J-Net21「建設業 | 起業支援」
URL: https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/etc/05042.html
中小機構 J-Net21「古紙回収業 | 起業支援」
URL: https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/etc/eco02.html
【本記事と当事務所の業務範囲】
本記事は創業時の資金計画に関する一般的な確認事項を説明するものであり、個別企業に対して借入の適否、借入額、融資制度または金融商品を推奨・選定するものではありません。当事務所は行政書士として、融資申請に用いる創業計画書・事業計画書・資金繰り表等の作成・整理を支援します。融資の可否・借入額・条件の判断、融資のあっせん、公庫・金融機関との交渉代理、投資助言、税務判断・税務申告、社会保険・労働保険手続、登記、契約・紛争に関する法律判断は行いません。融資条件は公庫・金融機関、税務は税理士、労務・社会保険は社会保険労務士、登記は司法書士、法律・交渉は弁護士など、各業務を担当できる窓口・専門家へご相談ください。
120分で、申請・相談に必要な事実と資料を確認します。
入金予定、支払予定、返済予定、採用・投資に関する既存資料を、120分のオンライン面談で確認します。
料金は、33,000円(税込)です。
面談後には、確認できた事実、未確認の資料、金融機関や各担当専門家へ確認すべき事項をまとめた「初回面談レポート」を納品します。
当事務所は、財務分析、資金繰り表・決算書等の作成、借入・採用・投資等の経営判断、法律・会計・税務上の判断、融資のあっせん・交渉を行いません。
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