※守秘義務に配慮し、企業や人物を特定できないよう、業種・規模・時期・金額など一部の情報を加工・変更しています。
IT受託会社がM&Aや事業譲受を検討するときは、買収価格だけでなく、買収後の入金、支払い、返済を確認する必要があります。
今回ご紹介するのは、事業拡大の選択肢として同業会社の事業譲受を検討していたIT受託会社の事例です。
当事務所は、M&A・事業譲受の可否判断、助言、仲介を行わず、依頼者から提供された入出金・返済予定と確認事項を資金計画資料に整理しました。
相談前の状況
相談者は、創業から数年が経過したIT受託会社の経営者です。
既存事業は継続していましたが、今後の成長方法として、同業会社から顧客や案件を引き継ぐ事業譲受を検討していました。
事業譲受によって既存顧客や開発実績を引き継げる可能性がある一方、買収資金の支払い後も、現在の会社を無理なく運営できるかが分からない状態でした。
経営者が感じていた不安や迷い
経営者が気にしていたのは、買収価格だけではありませんでした。
主な不安は、次のようなものでした。
- 買収資金の返済を続けながら、人件費や外注費を支払えるか
- 引き継ぐ案件の入金条件に問題がないか
- 保守対応や追加作業が想定以上に発生しないか
- 案件を引き継いだ後、新たな採用が必要になるか
- 社長やプロジェクトマネージャーの負担が増えすぎないか
- 買収後に手元資金が不足しないか
売上が増える見込みがあっても、支払いと返済が先に来れば、手元資金は一時的に減ります。
そのため、「買収できるか」と「買収後も会社が回るか」を分けて考える必要がありました。
数字や契約条件を整理して分かったこと
まず、現在の事業と引き継ぐ事業について、入金と支払いの時期を分けて確認しました。
確認したのは、次のような項目です。
- 既存案件と引継ぎ案件の入金予定
- 顧客ごとの締日と入金日
- 検収条件
- 外注先への支払条件
- 社員の給与と社会保険料
- 既存借入と買収資金の返済予定
- 採用が必要になる時期
- 保守対応や追加作業に必要となる工数
IT受託会社では、案件を引き継いでも、売上がすぐ現金になるとは限りません。
納品や検収が必要な契約では、外注費や人件費の支払いが先に発生します。引き継ぐ契約の入金条件によっては、売上が増えても手元資金が減る期間が生じます。
また、契約書に記載された業務だけでなく、過去案件の問い合わせ対応や保守作業など、売上として見えにくい業務も確認する必要がありました。
資金計画資料に整理した内容
当事務所は、買収価格の妥当性、契約内容、M&Aの可否を判断せず、依頼者が各専門家へ確認・決定した前提と、提供された数値を資金計画資料へ反映しました。
具体的には、次の内容です。
- 現在の会社の資金繰り
- 買収資金を支払った後の現預金
- 既存借入を含めた返済予定
- 引継ぎ案件の入金時期
- 人件費と外注費の支払時期
- 採用した場合と見送った場合の違い
- 入金が遅れた場合の手元資金
- 依頼者が指定した実行時・見送り時の前提
これらを月ごとに並べ、依頼者が指定した買収後の前提における資金残高を資料上に示しました。
企業価値評価、法務・財務・税務デューデリジェンス、契約書作成・法的判断、税務、労務、登記等は、それぞれ弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、司法書士等へご相談ください。当事務所は、各専門家へ確認する事項と、依頼者から提供された資金の流れを資料に整理しました。
経営者が判断できるようになったこと
整理後は、買収のメリットだけでなく、実行した場合の支払いと返済を同じ表で比較できるようになりました。
経営者が確認できるようになったのは、次の点です。
- 買収後に必要となる運転資金
- 外注費を立て替える期間
- 既存借入と買収資金を合わせた返済負担
- 採用を行う場合の実行時期
- 手元資金が薄くなる可能性のある月
- 買収条件について追加確認が必要な事項
この整理は、買収を勧めるためのものではありません。
依頼者が指定した実行時・見送り時の数値を併記し、経営者自身が各専門家の助言を踏まえて判断する際の参考資料を作成したものです。
この事例から分かる一般的なポイント
IT受託会社のM&Aでは、売上高や顧客数だけでは買収後の資金繰りを判断できません。
特に確認したいのは、次の点です。
- 顧客からの入金条件
- 外注先への支払条件
- 納品と検収の条件
- 保守契約の範囲
- 未完了案件の作業量
- 社員や外注先の引継ぎ条件
- 既存借入と買収資金の返済
- 買収後に必要となる採用や追加投資
案件を引き継ぐことで売上が増えても、支払いが先行すれば手元資金は減ります。
買収価格だけでなく、買収後にいくら残り、毎月どのように資金が動くかを見ることが重要です。
同じような状況の経営者が確認したいこと
M&Aや事業譲受を検討している場合は、まず次の資料を集めてみてください。
- 対象事業の月別売上
- 売掛金と入金予定
- 顧客との契約書
- 外注先との契約書
- 進行中案件の一覧
- 保守契約と対応実績
- 社員・外注先の体制
- 現在の借入返済予定
- 買収後の採用・投資計画
- 買収資金を支払った後の資金繰り表
M&A・事業譲受を実行するか、どの条件で契約するかは、依頼者が弁護士、公認会計士、税理士等へ相談して決定する事項です。
買収後も既存事業と引き継いだ事業を無理なく運営できるか。その判断材料を、契約前に整えることが大切です。
自社の数字に置き換えて整理したい場合は、IT受託会社向けM&A資金構造チェックをご確認ください。M&Aの成立、融資の実行、審査結果などを保証するものではありません。
※当事務所は、M&Aの仲介・相手方の探索、条件交渉・代理、企業価値評価、デューデリジェンス、契約書作成・契約内容の法的判断、税務・会計相談、労務判断、登記、融資判断・金融機関との交渉を行いません。必要に応じて、弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、司法書士その他の専門家へご相談ください。