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[1.IT受託会社向け資金戦略]

IT受託会社の資金戦略|3月決算前は「利益」より着地キャッシュをみる

  • 投稿:2026年02月26日
  • 更新:2026年03月11日
IT受託会社の資金戦略|3月決算前は「利益」より着地キャッシュをみる

IT受託会社の3月決算前は、利益ではなく着地キャッシュを見る局面です。固定費カバー月数と資金余力から、借入判断の基準を整理します。

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2月下旬から3月にかけて、試算表を見る手が止まる場面があります。

売上は見えている。

決算も赤字ではなさそうだ。

それでも、4月以降の資金繰りを思うと落ち着かない。

IT受託会社で起きやすいのは、この感覚が気のせいではない、という点です。

3月決算前にみるべきものは、損益計算書の見栄えではありません。

3月末に現金がいくら残るか、その残高で固定費を何か月カバーできるかです。判断を誤りやすいのは、売上が立っている会社ほど、資金の薄さが見えにくいからです。

3月決算前に資金が薄くなるのは、赤字だからとは限らない

IT受託会社では、売上計上と入金がずれやすい構造があります。
月末締め・翌月末あるいは翌々月末入金、という取引条件自体は珍しくありません。

さらに、受託開発では検収がずれると請求もずれ、売上の認識以上にキャッシュの着地が後ろへ動きます。

中小企業庁のQ&Aでも、下請法が適用される取引では受領後60日以内の支払という考え方が示されていますが、実務では請求・検収条件次第で回収サイトが資金繰りに強く影響します。

一方で、人件費は毎月発生し、社会保険料の納付期限は翌月末です。

日本年金機構も、保険料は納付対象月の翌月末日までに納めると案内しています。

売上の回収より先に、毎月の支払いは進んでいきます。

このズレがある以上、「黒字見込みだから安全」とは言いにくい。

3月は利益の月ではなく、着地キャッシュの月として見る必要があります。

まず確認すべきは、3月末着地キャッシュの見込み

基本式は単純です

3月末現預金見込み
= 2月末現預金残高 + 3月入金予定額 - 3月支払予定額

ただし、ここでいう支払予定額は、経費の総額ではありません。資金流出のタイミングで見ます。給与、外注費、家賃、システム利用料、借入返済元金に加え、3月末時点では4月以降に確定・納付期限を迎える税金まで視野に入れておく必要があります。

法人税等は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内に申告・納付する扱いです。

消費税も、前事業年度の年税額によっては中間申告が必要になります。

消費税については、「基準期間の課税売上高1,000万円超で納税義務が生じる」という理解だけでは不十分です。

国税庁は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、適格請求書発行事業者の登録を受けている場合には納税義務が免除されない、と示しています。

判断基準は「いくら足りないか」ではなく「何か月持ちこたえられるか」

固定費カバー月数でみる

実務上、3月末時点でまず置きたい指標は次のとおりです。

資金余力(月数)= 3月末現預金見込み ÷ 月間固定支出

ここでいう固定支出は、少なくとも毎月ほぼ確実に出ていくものです。
人件費、社会保険料、固定的な外注費、家賃、システム利用料、借入返済元金。この6つを先に押さえると、見誤りが減ります。

たとえば、3月末の現預金見込みが900万円、月間固定支出が300万円なら、資金余力は3か月です。
この「3か月」をどう見るかが、借入判断の起点になります。

実務上の目安

実務上は次の見方が多いです。

  • 2か月未満:資金繰り対応を先送りしにくい水準
  • 2〜4か月:案件の入金遅延や採用先行で一気に薄くなりやすい水準
  • 4か月超:短期のブレには耐えやすいが、投資や返済計画との整合を別途確認したい水準

これは安全圏の断定ではありません。

重要なのは、自社の入金サイトと固定費構造で読み替えることです。

SES型と受託開発型とでは、資金が薄くなる理由が違う

SES型

SES型は、毎月の請求が立ちやすく、売上の見通し自体は比較的置きやすい傾向があります。
ただし、人月モデルは稼働率が落ちると売上がすぐ縮みやすい一方、人件費は急には下がりません。見かけ上は安定していても、稼働の落ち込みが2〜3か月続くと、固定費カバー月数が静かに削られます。

受託開発型

受託開発型は、案件ごとの検収時期、請求タイミング、外注先への支払条件が資金繰りに直結します。
特に、外注費を先に払い、売上の回収が検収後になる会社では、案件が動いているほど資金が薄くなることがあります。広告費や採用費を先に投下して案件確保を図る局面では、この傾向はさらに強まります。

よくある誤解

「黒字見込みだから大丈夫」
「来月、大きな案件が入る」
「保証付き融資も使えるはずだ」

この3つは、いずれも判断材料にはなりますが、結論にはなりません。
全国信用保証協会連合会が案内する信用保証制度は、中小企業・小規模事業者、金融機関、信用保証協会の三者で成り立つ仕組みです。保証付き融資は選択肢になりますが、それ自体が資金戦略ではありません。

借入の検討は、「調達できるか」より先に、「調達後に何か月の余力を確保したいのか」で決めるべきです。

まとめ|決算前は、資金余力を月数で言える状態にする

3月決算前に必要なのは、立派な計画書より先に、3月末着地キャッシュを言えることです。
そして、その残高で固定支出を何か月カバーできるかを把握することです。

売上が伸びていても、検収が遅れれば現金は残りません。
案件が増えても、外注費や人件費が先に出ていけば、資金余力は縮みます。
この構造を見ないまま借入を考えると、調達の是非ではなく、判断の順番を誤りやすくなります。

資金戦略は、一般論で決められるものではありません。
同じIT受託会社でも、入金サイトや固定費構造によって最適解は変わります。
重要なのは、「借りられるか」ではなく「今、借りるべきか」を判断できる状態をつくることです。
まずは自社の数字を整理することから始めてみてください。

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