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[1.IT受託会社向け資金戦略]

【IT受託会社×資金戦略】3月決算前にみるべきは売上ではない──年度末の借入判断を左右する「固定費カバー月数」と3月末着地キャッシュ

  • 投稿:2026年03月01日
  • 更新:2026年03月15日
【IT受託会社×資金戦略】3月決算前にみるべきは売上ではない──年度末の借入判断を左右する「固定費カバー月数」と3月末着地キャッシュ

3月決算前にIT受託会社が確認すべきはPLではなく、着地キャッシュ。固定費カバー月数と資金余力から、年度末の借入判断を設計する視点を解説。

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3月に入ると、数字の見え方が少し危うくなります。
受注残はある。請求予定もある。来期の案件相談も動いている。

にもかかわらず、預金残高だけを見ると、なぜか安心できない。

IT受託会社の年度末では、この感覚のほうがむしろ正常です。

理由は単純で、3月の意思決定はP/Lでは遅いからです。
みるべきは、3月末にいくら利益が出るかではなく、3月末時点の現預金が、その後何か月持つのかという着地キャッシュです。

とくに受託開発、Web制作、SESでは、売上が立つタイミングと、資金が出ていくタイミングがずれやすい。

掛取引では利益計上と資金回収が一致せず、黒字でも資金が苦しくなることは公的機関の解説でも繰り返し示されています。

構造解説

3月は「売上があるのに資金が薄い」が起きやすい

IT受託会社の3月は、請求が増える一方で、資金化は遅れます。
請求から入金まで60日前後のサイトは珍しくありません。3月に売上計上しても、資金として入るのは5月、という形になりやすい。

一方で、給与、外注費、家賃、各種SaaS、採用費、広告費は先に出ていきます。

さらに、社会保険料は原則として翌月末までに、源泉所得税は原則として翌月10日までに納付が必要です。

年度末の預金残高を見るときは、この「もう決まっている支出」を先に織り込まなければ、数字を読み違えます。

固定費カバー月数は「安全性」ではなく「判断余地」の指標

固定費カバー月数は、単なる安心材料ではありません。
現預金を月間固定費で割って、会社が調整に使える時間を測る指標です。

現預金 ÷ 月間固定費 = 固定費カバー月数

ここでいう固定費は、人件費、役員報酬、家賃、社会保険料、基幹SaaS、最低限の外注固定枠など、「案件が減ってもすぐには下がらない支出」です。
重要なのは、売上の大小ではなく、この月数が何か月あるかです。資金繰りでは「いくら足りないか」より「何か月持つか」のほうが、借入判断に直結します。

IT受託会社は、売上より先に資金が傷む

受託開発では、検収遅延が1件起きるだけで入金が後ろにずれます。
その間も外注費は先に支払う。

広告費や採用費を先行させている会社では、案件獲得のための支出がさらに先行します。

SESでは少し形が違います。
検収遅延のような一撃は起きにくい一方、稼働率が下がると、売上は緩やかに落ちるのに、固定費はほぼそのまま残ります。

受託開発型は急に薄くなることがあり、SES型は気づかないまま薄くなることがある。

この違いは、3月時点の借入判断でも見落としやすいところです。

よくある誤解

黒字なら年度末は乗り切れる

これは最も多い誤解です。
利益と資金は一致しません。

掛取引では、売上計上と回収の間にズレがあり、その間に支払いが先行します。

日本政策金融公庫の解説でも、このズレが資金繰り悪化の原因になると整理されています。

足りなくなってから借りればよい

借入は、資金が尽きてから検討するものではなく、調整可能な時間が残っているうちに判断するものです。
必要資金を算出する前に、まず見るべきなのは「今の現預金で何か月持つか」です。

この順番が逆になると、借入判断ではなく、資金ショート対応になります。

判断基準

3月にまず出すべき3つの数字

1つ目は、3月末着地キャッシュです。月末残高の見込みではなく、月末までに確定している支払いを差し引いた後の現預金を置きます。
2つ目は、月間固定費です。変動費と混ぜず、案件が減っても残る費用だけを切り出します。
3つ目が、資金余力◯か月です。
計算式はシンプルでも、判断はここから始まります。

月数の見方

以下は業界平均ではなく、IT受託会社支援の現場で使う実務上の設計目安です。

1.5か月未満
すでに遅い可能性があります。検収遅延、稼働空白、外注増のどれか1つで詰まりやすい。

借入の是非を議論する前に、固定費の定義と着地キャッシュの再計算が先です。

1.5〜3か月
最も判断が難しい帯です。表面上は回っていても、4月以降の稼働未確定や広告費先払いがあると、一気に薄くなります。

借入判断を検討するなら、この帯で「先に打つか、まだ持つか」を設計するのが実務的です。

3〜6か月
一定の余力はあります。

ただし、受託開発型で検収偏重なら安心とは言えません。

案件構成が偏っている会社ほど、この月数でも実質は短く見たほうがよい場面があります。

6か月以上
初めて「待てる状態」に近づきます。

単価調整、不採算案件の見直し、採用計画の再設計など、攻めと守りを分けて考えやすくなります。

モデルケース

年商6,000万〜8,000万円、社員4〜6名、外注比率やや高めの受託会社。
3月時点の現預金は1,000万〜1,300万円、月間固定費は350万〜450万円。表面上の固定費カバー月数は約3か月です。

しかし、4月に案件1件の検収が後ろ倒し、採用関連費と広告費が先行、さらに外注支払が翌月に集中していた場合、実質の資金余力は2か月前後まで縮むことがあります。
ここで必要なのは、「いくら借りられるか」ではなく、「何月の何の支出を吸収するために、いつ判断するか」という設計です。

業種差への言及

受託開発型は、売上が大きく見えても、検収と入金サイトのずれで資金が急に薄くなることがあります。
SES型は、月次売上が安定して見えやすい反面、稼働率が落ちたときに固定費の重さが遅れて効いてきます。
Web制作会社は、広告費や外部パートナー費用の先行で、案件獲得局面ほどキャッシュが傷みやすい。

同じ「IT受託会社」でも、必要なのは業種平均ではなく、自社の資金の薄くなり方を見た設計です。ここを外すと、借入は調達手段ではあっても、判断基準にはなりません。

まとめ

3月に見るべきなのは、売上見込みでも、決算上の利益でもありません。
3月末着地キャッシュがいくら残るのか。
月間固定費はいくらなのか。
その結果、資金余力は何か月あるのか。
そして、その月数で4月・5月のズレを本当に吸収できるのか。

年度末の借入判断は、資金不足が見えてから行うものではなく、まだ選べるうちに設計するものです。
融資の可否より先に、判断の基準を持てているか。そこが、IT受託会社の資金戦略では分岐点になります。

※上記事例は実際の相談内容をもとに再構成したモデルケースです。

守秘義務の観点から一部表現を調整していますが、判断の構造自体は実務に基づいています。

資金戦略は、一般論で決められるものではありません。
同じIT受託会社でも、入金サイトや固定費構造によって最適解は変わります。
重要なのは、「借りられるか」ではなく「今、借りるべきか」を判断できる状態をつくることです。
まずは自社の数字を整理することから始めてみてください。

出典一覧

  1. 経営Q&A~上手な資金繰り方法~
    公表元:日本政策金融公庫
    URL:https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/kei_qa_1807.pdf
  2. 厚生年金保険料等の納付
    公表元:日本年金機構
    URL:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/nofu.html
  3. No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
    公表元:国税庁
    URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2505.htm
  4. 2024年版「中小企業白書」第5節 企業の規模間移動と開廃業
    公表元:中小企業庁
    URL:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_3_5.html
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